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「かっこいい生き方」はどこにある? 居酒屋のおっさんが教えてくれた人生訓

おっさんの「悟り」に深く頷く僕

「思い描いたかっこいい人生ではなかったけど、いいところもあるんだよ」  年上のおっさんは芋焼酎の水割りが入ったグラスを傾けながら言った。 「そうではなかったと思えるからこそ、色々な場面で少しでもかっこいい人生でありたいと振る舞える。それが大切かな」  あんたもう、すでにかっこいい人生だよ。もう僧侶の域に達しているよ。  ぜんぜん関係ない僕にはめちゃくちゃ響いているのに、本来の相手である年下おっさんには全く響いていない様子。 「そろそろ帰りましょうか」  と、早く帰りたそうにしている始末。 「帰る前にちょっとトイレ行ってきますね」  年下おっさんはいそいそとトイレに向かった。トイレには僕の飲み相手であるおっさんが攻城戦に夢中になっているので、なかなか空かないはずだ。当分の間、年下おっさんも帰ってこないことが予想された。

なんと年上のおっさんが取った行動は

 僕と同じように持て余してしまった年上おっさんは、即座に動いた。 「お会計」  年下おっさんがいない隙をついて全部の会計を済ませてしまったのだ。かなりスマートに、そうすることが当然であるように全てを支払ったのだ。むちゃくちゃかっこいい。 「すいません。トイレあかないので駅でします~。行きましょう」  しばらくして、年下おっさんがすごすごと戻ってきた。たぶん攻城戦のせいだ。すまん。 「じゃあいこうか」 「あれ、お会計は?」  年下おっさんは、お金を請求される雰囲気がないことを不審に思ったようだった。すぐに年上おっさんが答える。 「ああ、なんかしらんけど無料になった」  めちゃくちゃかっこいい。  なにもしらないのに無料になるはずないんですけど、こう答えることで年下おっさんは奢られたという気負いを感じないわけです。「おごりだよ」と宣言する押しつけがましさがなく、それでいてユーモアもあって実にスマート。場面場面でかっこいい人生でありたいってこういうことなんじゃないかって思うんです。 「そんなあ、いつもじゃないですか。今日は払いますって。割り勘にしましょうよ」  年下おっさんも食い下がる。どうやらいつもこんな感じで奢ってもらっているらしく、ついにしびれを切らし、今日こそは払うぞというなかなかの意気込みだ。
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そして僕は、思いもよらぬ急展開に巻き込まれ……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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