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文章のプロとして、おっさんのラブレターを指導することになった僕は……

書き出しをどうすべきか、ああでもないこうでもないと悩む

無題606「まずは時候の挨拶から入るべきでしょう。ラブレターといえども礼儀は大切ですから」  そう助言するとおっさんどもはスマホで「時候の挨拶」を調べ始めた。どこか例文サイトみたいなものを参考にしているようだ。 「新春の候、貴社いよいよご清祥のこととお喜び申し上げます」  どうやら出だしはこれに決まったらしい。すぐに持参していたパソコンに打ち込む。僕は決まったことをただ打ち込むだけだ。そこで別のおっさんから疑問の声が上がった。 「貴社っておかしくないか?」 「たしかにそうだ。彼女は会社じゃない」 「じゃあなににするんだよ」 「貴女でいいんじゃないか。なんかオシャレだし」 こうして書き出しは「新春の候、貴女いよいよご清祥のこととお喜び申し上げます」に決まった。続く文章を皆で考える。 「次はいよいよ、単刀直入に好きですでいいだろ」 「まだ早い」 「どういうところが好きなのかを書いてみたらどうかな。ただ好きですより説得力があるだろ」  なかなか建設的な意見が出てきた。

朝に見せてくれる笑顔=アサガオで決定

「タケさん、彼女のどういうところが好きなのよ」  タケさんが少し考えた後に答える。 「朝、コーヒーを買いに行ったときに見せてくれる笑顔かなあ」 「なるほどね。朝に見せてくれる顔ね。それとアサガオをかけると風流だね」  なぜアサガオが出てきたのかちょっと理解できないけど、それがおっさんどもの心に刺さったらしく、もうアサガオのことを書くしかないという雰囲気になってきた。 「プロ、どう思う?」  意見を求められたので、できる範囲で助言する。 「朝に見せてくれる笑顔とアサガオの関連性がちょっと分からないですけど、その二つをダイレクトに結ぶといかにも親父ギャグみたいになりますね。やるにしても遠回しな方がいいですね」 「なるほど、さすがプロ」  そう言われると悪い気がしない。ついつい助言が止まらなくなってしまった。 「アサガオは日が昇る頃には萎れてしまうじゃないですか。その儚さと、でも翌日も朝になると元気に咲いている感じをタケさんの心情に重ね合わせたらどうでしょうか」  そうしてできた文章がこれだ。
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ようやくラブレターが完成
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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