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文章のプロとして、おっさんのラブレターを指導することになった僕は……

結果的にタケさんが僕に見せてきた文章は……

 周りのオーディエンスはあまり役に立っていない感じだけど、ここまで一緒にやってきたという自負がある。見せろ見せないとすったもんだがけっこうな長時間に渡って展開された。タケさんはついに誰にも見せることなく、これをそのまま打ち込んでくれ! と僕にスマホを差し出してきた。  ここにタケさん渾身の愛の言葉が書かれている。これはちょっと軽く扱っていいものじゃないぞ、こちらも真剣に受け止めなければいけない。ごくりと生唾を飲みこんで、決意してタケさんのスマホの画面を覗き込んだ。 「位置情報サービスがオフです」  そう表示されていた。あまりに長いことすったもんだしていたのでタケさんのスマホ、待ち受けのロック画面に戻っていた。さらにタケさん、ロック画面を天気や気温を表示するやつに設定していたっぽいのだけど、GPSをオフにしているらしく、画面にはそう表示されていた。タケさんはそれに気づいておらず、印籠のようにしてこちらにスマホを見せつけている。 「ほ、ほんとうにこれでラブレターを締めていいんですか?」 「あたりまえよ」  タケさんは少し得意気だ。そこまで言うなら仕方がない。  こうしてできあがったラブレターがこちらだ。

すったもんだで完成した渾身の文書

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 新春の候、貴女いよいよご清祥のこととお喜び申し上げます アサガオはどうして朝が終わると萎んでしまうんだろう。なんだかアサガオを見ていると自分のことのように思ってしまう。僕も朝が終わると少し元気がなくなる。でもね、アサガオが翌日の朝を迎えてまた元気に咲くように、僕もまた朝を迎えると元気になるんだ。 位置情報サービスがオフです。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  こんなもん怪文書でしかないだろ。  結局、あまりの酷さにタケさんが怒り狂い、ラブレター作戦はお蔵入りとなってしまった。よかった。怪文書を受け取って困惑する人が出ないということだ。本当に良かった。 「プロだからこれくらい軽いと思ったのに」  タケさんはそうボヤいたが、プロだって万能ではないし、気分が乗らないとそこまで親身になって働いたりはしないのだ。しょんぼりとしたタケさんだったが、どうせ次の日の朝には元気になっているだろう(朝勃ちではない)。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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