エンタメ

文章のプロとして、おっさんのラブレターを指導することになった僕は……

ようやくラブレターが完成

「アサガオはどうして朝が終わると萎んでしまうんだろう。なんだかアサガオを見ていると自分のことのように思ってしまう。僕も朝が終わると少し元気がなくなる。でもね、アサガオが翌日の朝を迎えてまた元気に咲くように、僕もまた朝を迎えると元気になるんだ」 「さすがプロ。なんか哀愁があっていいな。タケさんぽい」  その賞賛の声に混じって指摘の声も聞かれた。 「でも、朝になると元気になる理由を書いた方がいいんじゃないか。君が笑顔でコーヒーを売ってくれるからって」 「それを書くのは野暮ってもんよ」 「それくらい読み取れる女じゃないとな」 「でも書かないと朝勃ちだと思われないか?」 「(朝勃ちではない)と書いとけばいいだろ」 「さすがにそれはない」

タケさんの飾らない気持ちを手紙に込めて

 話し合えば話し合うほどどんどんとヤバい怪文書が出来上がりそうな雰囲気が漂ってきた。しかし、ここから一番大切な部分に触れなくてはならない。そう、タケさんの気持ちだ。 「ここからはタケさんが考えた本当のタケさんの言葉を書くべきです。誰の助言も受けない本当の言葉を」  僕の助言にタケさんは深く頷いた。 「じつは考えてある。昨日の夜に考えた」  それだよ。それを待っていたんだよ。どうやら何か感じるものがあったらしく、最終的には自分の言葉で書かなきゃならんと、けっこう真剣に自分の言葉で考えて渾身の文章をスマホに保存していたみたいだった。 「それが見たかったんだよ、見せてみろよ」  オーディエンスが囃し立てるが、タケさんは見せようとしない。 「ダメだ、これは見せない。俺の言葉だ。プロにしかみせないんだ」  タケさんが拒否する。 「せっかく一緒に考えてやったのにつれねえじゃねえか」
次のページ
結果的にタケさんが僕に見せてきた文章は……
1
2
3
4
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
おすすめ記事