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「MARCH受験は甘くない」国立狙いの受験生が“滑り止まらない”ワケ 井川意高×藤沢数希

全国の中学受験は終了、大学受験もピークを迎え、国公立大学の二次試験が近づいてきた。受験生とその親御さんにとっては勝負の季節だ。少子化が進むなかでも、受験競争は過熱する一方。現代の教育産業に鋭く切り込んだ『コスパで考える学歴攻略法』(新潮新書)の著者である藤沢数希氏と、東大法学部卒で大王製紙会長と輝かしい経歴を持ちながら“106億円をカジノで失った男”として知られる井川意高氏が対談。後編となる今回は、国立大学と私立大学における受験の性質や学費から見る「日本の教育の格差問題」について、二人の意見を語ってもらった。 【井川意高×藤沢数希の前回記事を読む】⇒「過熱する中学受験『中高一貫校1000万円の教育投資』で偏差値はいくらあがる?」はこちらへ

東大狙いの受験生でもMARCHはあなどれない

井川意高

井川意高氏

――藤沢さんは以前Twitterで「MARCHを甘く見てはいけない」という旨の発言をされていました。 藤沢:理系は私立と国立で入試科目に大きな違いがないので、上位国立大学を狙っている受験生なら中堅の私立大学なら順当に受かることが多いのですが、文系は国立と私立ではほぼ違うゲームなので、5教科勉強しないといけない国立狙いの受験生が意外と滑り止まりません。MARCHなんかは、地方旧帝大合格者もかなり落ちています。私立文系は国語・英語・社会の3科目、あるいは英語・社会の2科目だけなんで、英語が相当に強くないと、国立受験生もこうした少数科目に特化して勉強してくるスペシャリストに負けてしまいます。東大に受かったけど、早慶には落ちたという人はけっこういます。 井川:それはそうですよね。ある程度はカバーできるかもしれないけど、教科が少ない分問題の深さが違う。私が受験した当時は、早稲田の日本史なんか年号どころか月まで覚えていないといけなかった。東大には受かったけど、早稲田には受からなかったかもしれないなあ。 藤沢:東大受験だと5教科すべてが得意な受験生はいいのですが、そんな人はごく少数で、たいていは不得意科目の失点を得意科目でいかに挽回するか、という戦いになる。英語が得意で東大A判定やB判定なら早慶文系は滑り止めになるのですが、英語が不得意で国語や社会で稼ぐタイプだと早慶はなかなか危うくなります。井川さんの場合は、お父さんの教育のおかげで英語が得意科目だったから、早慶をもし受けていたら楽勝だったでしょうね。 井川:親父は慶應文学部の英文科ですからね(笑)。 藤沢:井川さんの筑駒ももちろんですが、麻布や武蔵なんかの名門校では、英語と世界史で早慶やMARCHなんかの私立文系を狙うみたいなことはほとんどありません。ちゃんと高校数学をやって東大を目指します。しかし、東京の2、3番手の進学校だと、東大はもちろん一橋や東工大なんか学年で1人出るかどうかなんですが、こういう私立高校は、もう堂々と高2から数学が選択科目になっちゃって、早慶文系コースみたいに早慶やMARCHに特化した授業が始まるんです。MARCHはこうやって、国語と英語と世界史だけを2年間ひたすら勉強した2番手進学校の人たちとの戦いになるんですよ。

2022年は東大文三が文一よりも合格最低点が上

井川:私は東大しか受けていないから、全然そんなことは知らなかったですね。 藤沢:さすが、筑駒ですね。東大しか受けない、というのはいまでもトップ層の受験生はそうです。しかも、井川さんのころの文一は、官僚が不人気になってきた今の文一とは格が違って、何なら東大よりすごいもうひとつ上の大学くらいの扱いだったみたいですね。 井川:私が受けたときの入試問題が、たまたま得意分野がたくさん出たという幸運も重なったんですけどね。ただ最近、東大の類別の偏差値を見たら、医学部以外はほとんど差がなくなっていてびっくりしました。 藤沢:最近は官僚になるより外資系企業に就職してたくさん稼ぎたいと思う東大生が多く、経済学部に進学しやすい文二が難化してきている印象です。さらに、どこでもいいからとにかく東大のネームバリューがほしいという人がいて、東大入試は応募開始後に科類別の応募状況が日々Webで公表されるんですけど、締め切り直前の最後の最後に二次の倍率が(例年より)低そうなところに出すという受験生の一群がいて、文系は科類別の難易度の差が消失しているんですよ。 井川:それは、ホリエモンの影響が多分にありそうですね。 藤沢:昨年の2022年の入試では、最後に一気に文三への応募が増えて、最終的には文三のほうが文一よりも合格最低点が上になってしまいました。だから、文一に行きたかったけど合格最低点が低いだろうと土壇場に安全策で文三にした子が、実は文一に出していたら受かっていたかもしれない。 井川:かわいそうだけど、そういう駆け引きで勝てるかどうかも入試という勝負事ですね。
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子供が現代の学歴獲得競争で
勝ち抜くための戦略

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