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デリヘル嬢との恋路に、立ちはだかった戦国武将――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第34話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第34話】風俗嬢のお礼日記  立川駅には中央競馬(JRA)の場外馬券売り場(WINS)が2つある。駅からさほど遠くない場所に、道路を挟んで向かい合うようにA館とB館がそびえたっており、まるでツインタワーみたいになっている。  明らかにあとからB館が増設されたような感じで、A館だけでは立川の競馬狂いを収納しきれず、やむなくB館を増設したとか、そういう経緯だろう。調べなくともなんとなくわかる。 「俺は悲しいことがあるとB館にいく」  別にどちらのWINSでも買える馬券は変わらないし、設備もそう大差がない。けれども馬場さんはそう言っていた。普段はA館だが、悲しいことがあると自分を慰めるようにB館に行くというのだ。場外馬券売り場近くの飲み屋で知り合った馬場さんは、そんなよくわからないことを言っていた。 「実はな、俺はあまり競馬が好きじゃねえんだわ」  馬場さんの話はよく分からなかった。A館に行くと狂ったように金を賭け、狂ったように声を絞り出し、狂ったように馬券をゴミ箱に叩きつける。その姿はまさに競馬狂い、賭ケグルイであった。それなのに競馬のことは好きではないという。 「本当はな、競馬で勝った金でデリヘルを呼ぶのが好きなんだわ」  この辺の部分はちょっと理解できないのだけど、なんでもただデリヘルを呼ぶのはあまり好きではないらしい。あくまで「競馬で勝った金で」呼ぶのがいいらしい。  デリヘルとは勝ち取るものだ、みたいな訳の分からないことも言っていた。  ある日曜日、いつものように立川のWINSに行くと、やはりA館に馬場さんがいた。馬場さんはいつも会うと、「ナスルーラのクロス」みたいなよくわからない馬の血統の話をしてくるのだけど、その日は違った。 「ちょっとついてこい」  なぜか深刻な顔をして外に出るように促してくる。そのまま石畳風の路地をトコトコと歩いて行った。 「昨日のレースでさ、バカ勝ちしわたけよ。それでいつものようにデリヘル呼んだわけ。それがめちゃくちゃいい子でさー、はっきり言って恋しちゃったわけよ」  黒髪で色白で清楚風、細いのにおっぱいがでかい、みたいな馬場さんの好みストライクの子だったらしい。おまけにサービスも献身的で素晴らしく、かなりのコストパフォーマンスだったらしい。 「それはよかったですね」  別に馬場さんの好みに興味はないので、適当に返事していると、馬場さんはどんどんエスカレートしていった。
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