更新日:2023年09月15日 18:38
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ハイデガー『存在と時間』から学ぶ「同調圧力の危険性」

周りに同調する人が増えれば、国の政治はおかしくなる

『存在と時間』の中でハイデガーが特に問題視するのが、同調圧力について。同調圧力の危険性は、それぞれの人間が自分の本来の目的を見失い、周囲の空気に同調した末に思わぬ結果を生み出すこと。その危険性に目を向けるべきだと、江崎さんは続ける。 「私自身は長年、政治の世界に携わっていて、気がかりなのは投票率の低下です。 選挙に行かない人が増えていますが、投票権とは本来政治に自分の意見を伝える権利です。『いい候補者がいない』というのは簡単だけど、本当に候補者のことを調べて判断しているのか。『選挙に行ってもどうせ政治は変わらない』みたいな議論に乗って面倒くさがっているだけではないのか。 しかし、そうやって政治について考えることをやめてしまう国民が増えると、政治はおかしくなっていく。現に税金や社会保険料の合計である国民負担率は1980年には30%でしたが、いまや47%です。投票率が低下するにつれて国民負担率は上がり、可処分所得といって手元に残るお金の割合は減ってきているんですよ」

「みにくいアヒルの子」のように、自分が活躍できる場を探せ

 また、周りが正しくてそれに合わせるのが正しいことなんだ、みたいな主体性のない行動は社会を悪化させるだけではなく、その人自身にも悪影響を及ぼすという。そこで、江崎さんが例に挙げるのが、『みにくいアヒルの子』の逸話だ。 「あの話は、突き詰めれば『自分は何者なのか』という話です。主人公の“アヒル”は、周囲の人たちと自分が違う。自分は浮いているからダメなのではないか、落ちこぼれではないかと悩みます。でも、実は本当は自分が白鳥の子で、白鳥の世界に行けば、自分と同じような存在に多数出会うことができた。これと同じで、もしいま自分が置かれている場に生きづらさを感じているのなら、いま与えられている場が本当に自分にとって正しい場なのか、ひょっとしたら別の場に行けば自分はもっと生き生きできるのではないかと考えるべきだと思います。  自分が何をしたいのかを考えずに、周りに合わせて漫然と生きていると、自分が活躍できる世界を見逃すことになり、結果的に『自分の考えていることはおかしいのかもしれない』と自分で自分を追い詰めることになります。だからこそ、自分は何者かを突き詰めて考える習慣をつけるべきなのです」
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みんなと違う意見を持つことの希少性に気づこう
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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