更新日:2023年09月15日 18:38
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ハイデガー『存在と時間』から学ぶ「同調圧力の危険性」

みんなと違う意見を持つことの希少性に気づこう

 他人と違う考えを持つこと。それに対して違和感を持つ必要はまったくないと、江崎さんは続ける。ある時、江崎さんが大学院の講義を行った際、20代の大学院生からこう質問されたという。 「僕は安全保障に強い関心を持っているのですが、周囲に同じような関心を持っている人は非常に少ない。僕のような人間は、社会に必要なのでしょうか」と。そこで、江崎さんはこう答えた。 「『あなたの同学年は日本中に100万人ぐらいいます。その中で、あなたと同じように安全保障について真剣に考えている人間は、せいぜい100人か200人だと思います。その100人が、将来の日本の安全保障の議論を左右する人間になることは間違いない。つまり、ほかの人が考えていないことを考えているということは、自分の影響力がそれだけ社会で大きくなるのです。あなたのレベルが上がれば日本の安全保障のレベルも上がるし、あなたのレベルが下がれば日本の安全保障のレベルも下がる。そのことを自覚してください』と伝えました。 これは、全体の中で自分がどこにいるかを考えることで、改めて自分という存在の意義を理解できるようになるということ。それは、私自身を振り返ってみてもそう思います。たとえば、日本には安全保障や政治の専門家は山ほどいます。ただ、私のように安全保障と政治をつなぐ議論ができる人間はそれほど多くないので、安全保障と政治をつなぐ仕事を頼まれることが多くなってきています」

他人に流されて生きていては、人生がもったいない

「哲学者としてのハイデガーは、第二次世界大戦にナチスへ加担するなど、必ずしもすべてが正しい行動をとったわけではありません。ただ、批判されるべき点はあるにせよ、『自分とは何か』という問いを発明したことが、ハイデガーの偉大さだ」と江崎さんは続ける。 「『自分とは何か』という問いを考えないまま、周囲に流されるように生きていくと、与えられた仕事を漫然とこなしながら生きることになりかねません。でも、せっかくもらった命をそんな使い方をするのはもったいない。せっかくの人生、いろんなことができるのだから、本当の自分と向き合える人が増えてほしいと願います」
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『まんが! 100分de名著 ハイデガー 存在と時間』を読む
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。

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まんが! 100分de名著 ハイデガー 存在と時間

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