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“ステルス値上げ”を気にするのは若者だけ?「山崎製パン」の売り上げが落ちない納得の理由

「消費者の選ぶ楽しさ」に合わせた戦略を構築

 一方で敷島製パンは食パンへの依存度が高くなっています。これはヒット商品の「超熟」によるもの。低温で長時間熟成させ、焼き上げる製法で特許を取得。従来、小麦粉の一部を熱湯でこねる湯種(ゆだね)製法は量産化ができないと言われていました。その常識を覆して特許を取得したのです。  パンメーカーにとって食パンという商品は魅力的。しかし、超熟のように優れた商品が既に存在し、更に消費者の支持を得ていると、その牙城を崩すのは容易ではありません。  山崎製パンは開発力を強化し、菓子パン領域の拡大に注力しました。年間3000アイテムを数えるなど、他社にはとうてい真似のできない体制を築いています。

「常時40~60品から選べる」ランチパック

 製品開発力の有無は、パン業界にとって重要な意味を持ちます。  顧客満足度調査などを行うROIは、2022年2月に1000人を対象にパンの意識調査を行っています。その中で、「パンの魅力はどんなところだと感じるか?」と尋ねました。「美味しい」が1位、「手軽」が2位。3位に「種類がたくさんある」が入り、59%となっています。  消費者はパンの選ぶ楽しさを重視しているのです。  山崎製パンの主力商品の一つ、ランチパックはこれまで1800種類以上を販売し、現在でも1年に新商品を150種類、レギュラー商品とご当地商品を合わせると常時40~60品をラインナップしています。  菓子パン事業の2023年度上半期の売上高は前年同期間比9.1%増の2042億円。その中でも主力の菓子パンの売上高は同13.2%増の530億円でした。山崎製パンは高級志向、低価格志向の両面から商品開発を行っており、新製品が売上の伸長に貢献したと説明しています。  ランチパックは発売当時、ピーナッツや小倉など4種類だけでしたが、2000年に入って戦略を大転換しました。なお、超熟が誕生したのは1998年10月。驚異的な食パンのヒット商品を前に、転換を迫られたのかもしれません。
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ステルス値上げ後も増収を成し遂げる
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フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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