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「静岡市VS浜松市」の対立・分断が顕著に…実は「リニア問題への関心は低かった」静岡県知事選を振り返る

報道を受け、主張を変えた両候補

静岡県知事選

沼津駅近くで街頭演説する鈴木康友候補(右)と応援弁士の渡辺周衆議院議員(左)(撮影:小川裕夫)

県知事選の序盤では、鈴木・大村両候補ともにリニア推進を掲げていました。が、選挙期間中に瑞浪市の一件が大きく報道されると両候補は主張を転換させます。 鈴木氏は川勝県政を評価する発言が増え、リニアに対しても厳しいスタンスへと変化。一方、大村氏も「(リニア問題は)一年以内に結論を出す」との主張を封印。加えて、静岡県のために静岡空港駅の開設を働きかけるとの主張を掲げるようになりました。 静岡空港は2009年に開港していますが、空港までのアクセスが難点。空港が立地する台地の下には、東海道新幹線が走っています。そこに目を着けたのが当時の静岡県知事だった石川嘉延氏でした。 静岡空港の真下に新幹線駅を開設すれば、新幹線と航空機との乗り継ぎがスムーズになります。乗り継ぎがスムーズになれば、おのずと利用者の拡大が見込めるわけです。 静岡空港の開港は石川氏の悲願の政策だったこともあり、石川氏は静岡空港駅の開設をJR東海に働きかけていました。 しかし、JR東海は静岡空港駅を新設すると駅間が短くなり、ダイヤに支障が出るといった理由で拒否。次の知事である川勝氏も静岡空港駅を実現するためにJR東海に働きかけていますが、静岡空港駅は実現していません。 これが静岡県とJR東海の関係をギクシャクさせている一因でもあるのですが、大村氏が選挙終盤になって静岡空港駅の新設を持ち出したことは、対JR東海という課題において石川・川勝路線を継承するという静かなる意思表示でもあったのです。

実は「リニア問題」への関心は低かった?

こうしたドタバタ劇を見ていると、静岡県知事選でリニア問題は重要な争点のように思えます。しかし、実際は県知事選においてリニア問題が議論される機会は多くありませんでした。 筆者は各候補者の街頭演説を取材し、候補者本人や応援に来ていた国会議員などにもリニアの質問をしています。少しでも票を取り込みたい候補者が言葉を濁して玉虫色の回答をすることは選挙戦では日常茶飯事ですが、応援に来ている国会議員や地方議員なども「リニアに関心が高いのは大井川流域の自治体で、ほかの地域で関心は低い」と口を揃えました。 特に、静岡県東部におけるリニアへの無関心は想像以上でした。鈴木氏をサポートする形で沼津を回っていた渡辺周議員にリニア問題を直撃しましたが、渡辺議員は「静岡県東部において、リニア問題への関心は低い」と前置きしながらも、「リニアはあちこちで工事が遅れている。静岡が悪者のように言われているが、実際は違う」と静かながら非常に強い怒りを含んだ口調で語りました。
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「静岡市と浜松市の対立構図」をまとめる必要が…
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フリーランスライター・カメラマン。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーに。首相官邸で実施される首相会見にはフリーランスで唯一のカメラマンとしても参加し、官邸への出入りは10年超。著書に『鉄道がつなぐ昭和100年史』(ビジネス社)、『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)などがある Twitter:@ogawahiro

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