鰻専門のチェーン店「鰻の成瀬」の勢いが止まらない。’22年9月に1号店を創業すると驚異的なスピードで店舗を増やし、’24年7月には200店と日本一の鰻チェーン店となる。本格的な鰻重を安価に提供し(うな重の梅で1600円、もっとも高い松でも2600円。ともに税込)、業界に風穴を開けた同店を率いるのは、フランチャイズビジネスインキュベーションの山本昌弘代表だ。
だが、外食チェーンでは焼き牛丼の「東京チカラめし」や立ち食い業態の「いきなり! ステーキ」など、急成長後に失速した例は枚挙に暇がない。果たして死角はないのか。飲食業界の広範な知見と軽妙な語り口で知られる外食コンサルタント・永田ラッパ氏が鋭く迫った。
鰻は世界一になりやすい食ジャンル

――絶好調ですね。鰻チェーン店で日本一ということは、事実上、世界一でしょ?
山本:もう世界一になってますよ。というか、それほど世界一になりやすいのが鰻という食ジャンルでした(笑)。
――創業1号店も最寄駅から徒歩10分以上の住宅街に出店してます。
山本:ラーメン店やカフェなら駅前の一等地でないと難しいけど、鰻店は飲食業の中でも立地条件が関係しない珍しい業態なんです。家賃など初期投資を抑えられ、スピーディな出店が可能になる。
それに、2000円という高額な値段でも、鰻は安いと思ってもらえる特殊な業態でもある。さらに、一食5000円超の老舗鰻店は一見さんにはハードルが高く、固定客で回っている店がほとんど。老舗の固定客以外の層にウチが得意なウェブマーケで集中的に広告を打てば、一気にシェアが取れると考えました。
――とはいえ、鰻は「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と言われる職人の世界。調理法はどう確立したんでしょうか?
山本:職人ではなく、調理器が鰻を焼くので素人でも問題ない。ボタンを押すだけです。職人に頼らないオペレーションをノウハウ化してきました。今は、鮨屋でも3か月で職人になれる学校もあるし、似たような話です。
こだわりの食材を年季の入った職人が作るうな重を好む人は当然いるし、素晴らしい文化だと思いますが、そこには5000円以上の価値を見いだす人が行けばいい。ウチは価格を抑えて、身近に鰻を楽しんでほしいという思いで営業してます。
――より安価な「宇奈とと」があり、牛丼チェーンでもうな重を低価格で提供している。
山本:正直、「安くてもおいしい」という声はあまり聞かない。ウチでは比較的おいしい鰻を提供できる自負がありました。鰻は専門店であることが重要。牛丼チェーンはあくまでも牛丼屋で、オプションで鰻も出している。競合とは思っていませんでした。実際、ウチのお客様が低価格のみを求めているのかといえば、一番注文が多いのはもっとも高い「うな重・松」です。
――直球で聞きますが、山本さんは飲食業の経験もなければ、飲食への愛も感じない。鰻にもあまり興味ないですよね?
山本:はい。厨房もわからないし、鰻に触ったこともない。正確に言えば、飲食に興味がないというよりは、究極的においしい食を出そうという意識がないんです。それより、フランチャイズ(以降、FC)ビジネスを通して、携わった人々が幸福になることに関心がある。
――正直すぎますよ(苦笑)。ちなみに、一番好きな食べ物は?
山本:……果物です。
――そこ、「鰻」って答えるとこじゃないですか!
山本:ハッ!?(苦笑)