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世界195か国の憲法を研究して知った「世界の変わった憲法」7選

⑤「国の動物」を定めるネパール憲法

ネパール 中国とインドに囲まれた内陸国のネパール。 「2008年5月に行われた憲法制定議会の初会合で君主制を廃止し、共和制へ移行、同時に国名を『ネパール連邦共和国』に改称し、その後、2020年12月に『ネパール』とすることに決定しました。  憲法は、7年にわたる制憲議会での審議の末、2015年9月に公布されました。従来、ヒンズー教を国教としてきましたが、『非宗教国家』と規定(4条1項)、一方で『国の花はシャクナゲ、国の色は深紅、国の動物は牛、国の鳥はロフォフォラスとする』(9条3項)の規定は、従来の憲法のままです。  牛はヒンズー教徒にとって、聖なる動物であり、崇拝の対象物とされています。同国のヒンズー教徒は81%です。『非宗教国』と『国の動物は牛』条項とどんな関係にあるのでしょうか。  私がかつてネパールのカトマンズを訪れたとき、牛が道路の真ん中を悠然と闊歩し、寝そべっていました。車は牛をはねないように徐行し、渋滞に陥っていました。日本では絶対に見られない光景でした」(西教授)

⑥動物愛護のスイス連邦憲法

スイス連邦「世界でもっとも厳しい動物保護法を有するのは、スイス連邦だと言われています。その原点は、1874年憲法25条の2(1893年8月21日の憲法改正により導入)にあると思われます。動物に苦痛を与えて殺処分をするのは残酷だという意識が働いていたようです。  現行の1999年憲法には、80条に(動物愛護)という見出しのもとに、連邦は動物の保護について、法令を制定することを定めています。これらの憲法規定は、国民投票によって採択されたものです。  憲法の規定を受けて制定された動物福祉法は、動物の福祉と尊厳を保護することを原則とし、違反者には動物を飼育すること、繁殖させること、取引することなどを禁じています。スイスで生まれた動物たちは、自分たちの恵まれた環境に大いに満足しているのではないでしょうか。ただし、外国と比較することのできる能力を持っていれば、という話ではありますが。  直接民主制を重視してきたスイスでは、国民投票が頻繁に行われることで知られています。  憲法改正は、国民発案の場合、全面改正にしろ、部分改正にしろ、18か月以内に10万人の有権者によって発議されます。  2018年11月25日、牛を愛する1人の畜産農家が10万人の賛成を得て、牛の角を切らないよう、また角を生やした牛を飼育している農家に対して、1頭あたり年間190スイス・フラン(当時の換算で約2万1500円)の補助金を与えるようにする憲法改正案を発議しました。  同国では、牛の角を切る『切除』は他の動物や飼育者にとって安全で、飼育面積も狭くてすむので、普通に行われています。切除は焼きごてなどを使用するため、動物愛護団体は『動物にひどい痛みを与えるのは可哀そうだ』と唱えて、憲法改正案を支持しました。結果は、反対約55%、賛成約45%で否決されました。日本でこんな憲法改正案の提案は、まったく考えられませんね」(西教授)
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憲法一代記――世界195か国の憲法を研究した私の履歴書 憲法一代記――世界195か国の憲法を研究した私の履歴書

東大憲法学におもねらず落語もたしなむ
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