更新日:2024年09月06日 14:21
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物理オリンピック代表候補→東大推薦入学の天才が“億バズTikToker”に転身したワケ「もう学力偏差値いらねぇわ」

言わずと知れた日本の大学の最難関である、東京大学。卒業後は大企業や士師業、官僚の職に就く者も多いことから、「東大卒」の肩書はいわゆるエリート街道を歩むための“特急券”だと思われがちだ。 しかし、なかにはそんな特急券を放棄し、我が道を貫く「クレイジー」な東大卒もいる。それが、いぶさん(25)だ。物理オリンピック日本代表候補選考という実績を引っ提げ東大に推薦入学するも、在学中はTikTokインフルエンサーとして活動。卒業後にはシーシャバーで店長を務めているという。彼の軌跡を追った。 【2本めの記事を見る】⇒“中1のテストで鼻っ柱が折られた”高校生が東大推薦生に選ばれた理由「大学教授に直談判して…」
億バズTikToker

東大生TikTokerとして名を馳せた“いぶ”さん。従来の東大生のイメージを覆すような、ホスト風のヘアメイクを施している。

『サマーウォーズ』に憧れ、数学オリンピックに出場

――現在、いぶさんはどのような活動をされているのでしょうか? いぶ:卒業と同時に、今年からシーシャバー・PukuPuku恵比寿店店長として働いています。学生時代にシーシャにドはまりし、系列店にアルバイトとして入社。あまり知られていませんが、シーシャは同じ材料を使っても作り手によって味が変わる。コーヒーやカクテルに似た世界です。 好きなものは極めたくなる性格の僕は、系列店3店舗を渡り歩き修行。昨年行われた「第一回Shisha-1グランプリ」で初代王者となり、個人的にもっともシーシャのレベルが高くかねてより異動を希望していた恵比寿店で、晴れて店長として働いています。 ――東大卒シーシャバー店長という、異色の経歴を持ついぶさんですが、そもそも東大進学を志したきっかけはなんだったのでしょうか? いぶ:東大を本格的に目指すようになったのは、高3のとき。きっかけは過去2年間、地元・栃木からの東大推薦合格者がいないと聞き、「じゃあ俺が受かってやるよ」と思ったからです。 小学校は普通の公立校でしたが、県内トップの中高一貫校に進学。中高では、数学オリンピック出場を目指す主人公・健二が、ヒロインである夏希先輩との関係を深めていく映画『サマーウォーズ』に憧れ、「女の子にモテモテの学校生活を送りたい」という不純な動機で数学オリンピック出場を決意。 その他、物理オリンピックや化学オリンピック、科学の甲子園にも出場し、物理オリンピックでは日本代表候補にも選ばれました。現実はモテモテとまではいきませんでしたが(笑)、東大には全国上位レベルのアカデミックな実績を残している人を対象に推薦入試が設けられていることを知り、一般入試と併願で受験することにしました。
億バズTikToker

物理コンテストの全国上位者たちが集った合宿。このなかから何人が東大に進学したのだろうか。

本番の面接は、東大の教授たちが物理に関してさまざまな質問をしてくるというものでした。大学レベルの問いかけもあり、3分の1はちんぷんかんぷん。それでも、わからないことには堂々と「わかりません」と答え、面接の終わりには「合格させてください」と熱意を伝えました。不思議と、落ちる気はしませんでしたね。

挫折&コロナにより、「現役東大生TikToker」が誕生

――事実、いぶさんは見事東大に合格。大学生活は、どのようなものでしたか? いぶ:「かっこいい」という理由で工学部機械情報工学科に入り、AIやVR分野を専攻。当初は研究者を目指して毎日12時間ほど勉強していましたが、この分野について知れば知るほど発展途上で、僕が生きているうちにやりたいことが実現できるかさえ怪しいということがわかってしまいました。 また、僕以外の推薦生はバケモノ級の天才ばかり。生物学オリンピックの国際大会で金メダルを取った人は、猫と会話できるか研究しているといって話しかけても「にゃー」しか言わない。脳科学の全国大会に出場していた人は、「見ると落ち着く」といって常に脳のCTスキャンを持ち歩いていました。「物理は好きだけど、僕はここまでできない。学問の未来はこういう人たちに託したほうがいい」と思った僕は、徐々に“大学生のモラトリアム期間”を楽しむ方向にシフトしていったんです。 ――そんな時にはじめたのが、TikTokだった。 いぶ:はい。ちょうどそのタイミングでコロナが蔓延し、遊ぶことすらできない状態に。一度実家に帰ることになったのですが、世間とのかかわりを絶やさないためにTikTokをはじめました。すると、「現役東大生」という肩書のインパクトの強さからか、これが大バズり。初月で20万円もの収益があがったんです。20万円なんて大学生には大金ですから、「俺には才能がある」と当時はかなり浮かれていましたね。今考えると、コロナが大きな人生の岐路になったと思います。
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いぶさんの実際の投稿。寄せられたアンチコメントをうまく駆使して、フォロワーをどんどん獲得していったという。

その後もTikTokのトレンドを分析し、「もう学力偏差値はいらねぇわ」などの煽る動画など多数投稿。狙い通りに伸び続け、始めてまもなく総再生回数が2億回を突破しました。ただ、大学3年になるタイミングで「現役東大生というブランドがなくなったらどうなるんだろう」、「卒業後も続けられたとして、インフルエンサーって何歳まで続けられるんだろう」と進路に迷うようになり、一旦休学を選択。そこで出した結論が、インフルエンサーを続けながら、個人事業主としてSNSコンサル業をはじめることでした。これもとんとん拍子で軌道に乗り、最終的には5人の従業員を抱えるまで成長しました。

「3年以内に社長になる」。いぶさんがシーシャにかける想い

――シーシャとは、どのようにして出会ったのですか? いぶ:偶然、PukuPukuの代表の方からSNS運用代行の依頼がきたんです。運用代行するにも、その分野についてある程度詳しくなくてはいけません。リサーチのためシーシャ文化に触れるうちに、すっかりその魅力に取りつかれてしまいました。 また、シーシャ作りの上達には、これまで培ってきた物理の経験が活きることも大きかった。科学研究における対照実験の要領でひとつひとつ検証していくことで、どんどん味をよくしていくことができる。それが楽しくてたまらなかったんです。次第にシーシャだけに集中したいと思うようになり、従業員やクライアントに謝り倒してSNSコンサル業をたたむことにしました。 ――東大を卒業して、シーシャの世界へ歩み出したことについて、ご自身ではどのようにお考えですか? いぶ:僕には、自分が集中したことに関してはめちゃくちゃ極められる才能があると思っています。それが、たまたまシーシャだった。両親には心配をかけてしまい申し訳ない気持ちもありますが、僕は心から熱中できることだけを愚直にやっていきたい。他者からの理解は必要ないし、むしろ誰かと同じなんてまっぴらごめんです。 よく「せっかく東大を卒業したのにもったいない」と言われますが、もったいないどころか東大ブランドを最大限活用しています。TikTokもそうですし、シーシャの世界でも個人ブランディングはすごく大切で、東大卒という肩書は唯一無二のもの。東大に入ってよかったと、本気で思っています。 ――今後の展望について教えてください。 いぶ:今は、シーシャの道をどこまで極められるかしか考えていません。PukuPukuグループを全国トップに押し上げ、いずれは世界進出したい。 僕は、子どもの頃から一貫してオープン管理を徹底しています。つまり、目標を人に言うことで、あとに引けない状況を自ら作り出すんです。代表にも「3年以内にPukuPukuの社長になりますよ」と宣言したので、それに向けて邁進していくだけです。 あえて将来の目標をあげるなら、心に余裕のある男になることですかね。その時その時で集中したいことにのめり込むだけなので、心に余裕を持って視野を広くできたらいいなと思っています。 【2本めの記事を見る】⇒“中1のテストで鼻っ柱が折られた”高校生が東大推薦生に選ばれた理由「大学教授に直談判して…」 【いぶさん(25歳)】 1999年、栃木県生まれ。物理オリンピック日本代表候補選考という実績から、東大に推薦で合格。東大在学中はTikTokインフルエンサーとして活動し、現在はシーシャバー・PukuPuku恵比寿店店長を務めている。TikTokアカウント: @ibuchan_ut <取材・文/MySPA!特別取材班>
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