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さよならだけが人生か。いつの世も、おっさんの悩みは面倒くさく拗れていることが多い

やっぱり、さよならだけが人生ではない

「これは変異では?引き返した方がいいのでは?」  冗談ながらそんなことを思いながら進んだけど、本当にここで引き返せばよかった。  中村さんの部屋に到着するとお互いに、 「あれ、別れる女性は?」 「あれ?別れる女性は?」 と言いあう展開に。準備という言い方が適切なのかは分からないけれども、お互いに向こうが別れる女性を準備すると勘違いしている。 「おかしいだろ。なんとかするって言ったろ。任せろとも言ったろ。それなら別れる女性を連れてくるだろ」 「出会ってもないのに別れるなんておかしいだろ。なにがサヨナラだけが人生だ。別れる段階になる人間関係すら存在しないやつは人生すら存在しない」  激しい喧嘩になってしまった。結局、僕のこの発言がクリティカルヒットだったらしく 「お前とは縁を切る!」  と言い出した中村さん。 「望むところ。さよならだけが人生だ!」  言いたいセリフを僕に言われてさらに怒り狂う中村さん。結局、引っ込みがつかなくなって勢いそのまま近所の食堂のおばちゃんに「さよならだけが人生だ」と宣言し、見事に行きつけの食堂にいけなくなったらしい。おかしすぎる。  おっさんは悩める生き物だ。場外馬券場にいるおっさんは競馬以外のことに悩んでいる。 「それは仲直りするべきです」  という竹内文書のインプレゾンビ的な助言を受けて、中村さんは僕との仲直りを画策しているらしい。  まあ、競馬新聞として東スポを差し入れてくれるなら仲直りしてもいい。なにせ東スポにはエロいページがあるからだ。さよならは人生だし、出会いも仲直りもきっと人生だ。さよならだけが人生ならば、人生なんていらないのだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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