焼肉店の倒産が過去最多。牛角、焼肉きんぐ…「大手」が店舗拡大する一方で「個人店」は苦境
焼肉店の倒産・廃業に歯止めがかけられず、過去最多を更新中である。輸入食肉だけではなく、野菜、コメ、人件費、水光熱費などの高騰で、コロナ収束後も客足の戻りが悪く、資金繰りに困窮する焼肉店は閉業待ったなしの状態だ。
若者や家族向けに焼肉食べ放題を提供する「牛角」(レインズインターナショナル)や「焼肉きんぐ」(物語コーポレーション)などは、内容を充実させながら適切な価格対応で店舗数を拡大している一方で、物価高騰の最中でも客足への影響を考え、値上げを躊躇する個人店も多い。
筆者が以前、焼肉店を経営していた時と今は、店を取り巻く環境(仕入れ・顧客・競争)が大きく変わっており、労働環境にも逆風が吹いている。以前は、食肉の調達費用や物流費も安く、しかも安定的に入荷できていた。原価35%、人件費20%、業務費10%、管理費15%、営業利益率20%と持続的に経営は安定していた。
ムリしてランチを営業することもなく、ディナーに集中して効率的な経営をしていた。そもそも、ディナーだけで採算が取れている焼肉店なら、それで十分ではなかろうか。無理して昼に営業するより、限りある経営資源をディナーに集中させたほうが経営効率も高く、従業員にもゆとりが出てきて、顧客サービスの質的向上が期待できるはずだ。
しかし、今は少しでも資金繰りを楽にするためにランチ営業する店が増えている。確かに、①売上が向上する、②食材の有効活用ができる(ディナー時の余りや端材を有効活用して食材ロスが削減)、③ディナーへの広告宣伝費になる、④現金払いが多いので資金繰りが助かるなどのメリットはある。しかし、人材不足が深刻な中、ディナーだけで経営できたほうが楽なはずだ。
しかし、現実として焼肉店は平日と週末の繁閑差が激しく曜日指数にばらつきがある。平日は閑散としており、店の前を通行する客からすれば、「この店大丈夫か」「お客さんが回転しないから肉の鮮度が悪いのでは」という負のイメージを勝手に持たれてしまうのだ。
昔の焼肉店は生レバーやユッケもあり、客単価が面白いように上がった。特に見栄張りやその場の勢いで散財するお客はたくさんお金を使ってくれて、店は潤ったものだ。しかし今となっては、そういう景気のいい時が懐かしい。
帝国データバンク10月2日の発表によると、焼肉店の倒産が年間最多を更新した。2024年に発生した焼肉店の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は、9月までに計39件となった。個人の小規模店の廃業を含めれば、実際はより多くの焼肉店が市場から退出したとみられる。
焼肉店を巡る2024年の経営環境は、極めて厳しいという現実が如実に数字に表れている。物価高騰であらゆる費用の負担が大きくなる中、賃金の上昇が追いつかず、節約志向のお客さんの懐事情から値上げが難しい個人店も多く、今後も倒産・廃業がさらに増えそうだ。
値上げできる店とできない店が2極化
ランチ営業せざるを得ない事情
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
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