累計発行部数2000万部以上の編集者が明かす、「スケジュールは“分刻み”」超マルチタスクでも大ヒットを生み出す意外な仕事術
出版不況の中で、社員数15人以下の小規模出版社ながら累計発行部数として2000万部以上の書籍を手掛けた編集者がいる。草下シンヤさん(46歳)だ。
しかも手掛けているのは“裏社会”のことなど、他の編集者ではおよそ手が出せないようなヤバい本ばかり。
ヒットを生む技術 小規模出版社の編集者が“大当たり”を連発できる理由』(鉄人社)が話題だ。
草下さんは彩図社で編集長としての業務を担いつつ、自らも小説やノンフィクション作品を執筆する作家、漫画原作者として活動してきた。おそらく、“日本一忙しい編集者”と言っても過言ではなく、「一時期は“分刻み”のスケジュールになっていた」と語るほど多忙を極めていた。
今回は、そんな超マルチタスクをこなしながらも大きな結果を生み出し続ける“仕事術”について聞いた。(記事は全2回の1回目)
今年(2024年)9月末に編集長を務めていた彩図社を辞めるまで、主に編集者、漫画原作者、YouTubeの企画立案など、複数の仕事を並行してきた草下さん。どれくらいの仕事量を年間でこなしていたのだろうか。
「漫画は原作が3本、連載担当が2本、担当編集が2本。書籍は担当編集が20冊、編集長業務で70冊、あとはYouTubeの動画を200本アップしていました。本の執筆は年に1冊とか。他にも頼まれて雑誌に記事を書いたり、裏社会系の相談に乗ったりしていました」
たった1人で普通の編集者10人分くらいの“人生”を同時に送っているように思えるが、やることが多すぎてパニックになりそう。
タスク管理が気になるところだが、草下さんは意外にも「あえてガジェットは持たずに、不便さを残すようにしています。時計すらもつけていません」という。
「スマホを持ち始めたのは、ここ5年くらい。本当は忙しくなるから持ちたくなくて、ガラケーで粘っていたのですが……7年近く使っていたガラケーがついに壊れて、仕方なく買いました。スマホは仕事上こまめに見ますけど、連絡が来ると返しちゃうから、なるべく見たくないです。連絡ツールもいろいろあると思いますが、LINEに一本化してもらっています。SlackもChatworkもTeamsもよくわかりません(笑)」
タスク管理で使っているのはスケジューラーだけなのだとか。分刻みのスケジュールの中で、息抜きもしっかりしているという。
「2時間くらいスマホを見ずに済むので、サウナはいいストレス発散になるんです。池袋の『かるまる』には、よくお世話になっています。ワーキングスペースで原稿も書けますしね」
なるべく7時間は寝るようにして、睡眠時間もきちんと確保しているとのこと。「寝ないでこんなに仕事はできないんで」と語るとおり、どれも草下さん本人にしかできないものばかりだ。
当たり前の話だが、1日は24時間しかない。
草下さんは、過去に『実録ドラッグ・リポート アジア編』(彩図社)を1日で原稿150枚を書き上げたことがあるという。『ヒットを生む技術 小規模出版社の編集者が“大当たり”を連発できる理由』(鉄人社)のあとがきは、スマホのメモ機能を使って1時間で書き上げたそうだ。担当編集者いわく、「赤入れ(修正)する必要がまったくなかった」とか。
草下さんによると、コツは「“早い仕事”をする」ことだという。これは、ただ早く仕事をこなせばいいわけではない。
スピード感を持って進めることができて、修正があまり入らないような仕事をする、という意味なのだとか。
「“遅い仕事”ということは、越えなきゃいけない課題があるということ。課題の解決が難しいから時間がかかるんです。原因としては、人脈がないか、知識や経験が不足していることが多いですね。
早い仕事は、始める前から課題がきれいにクリアされていて、一本の線でつながっています。だから、普段から人間関係を円滑にしておいたり、インプットをして引き出しを増やしたりと、環境を作っておくことが大事なんです」
仕事を優先すると、プライベートが犠牲になりがち。しかし、環境作りも意識して、人間関係には気をつけていたのだという。
「どんなに忙しくても、お祝い事に呼ばれたら出席したり、友達が犯罪を犯したら面会に行ったりしていました。やると決めたことはやります」
インプットは、どのようにしていたのか。実はそこに、ヒット作を生み出すコツが隠されていた。
X(旧Twitter)のフォロワー数は約13万6000人。SNS発信のマンガ「地元最高!」をヒットに導き、YouTubeプロデューサーとして「丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー」を登録者数120万超えの人気番組に成長させるなど、書籍の編集者でありながら、今の時代に“バズる”コンテンツを生み出している。
そのノウハウを惜しげもなく詰め込んだ『「時計は持たない」「連絡はLINEに一本化」あえて不便さを残す
「1日で原稿150枚書き上げる」“早い仕事”ができる環境を作っておく
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ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother
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『ヒットを生む技術 小規模出版社の編集者が“大当たり”を連発できる理由』 本書は、小規模出版社でありながら尖った企画の「ヤバい本」でベストセラーを連発する異色の編集者/作家・草下シンヤ氏の「ヒットを生む技術」を網羅したビジネス書である。企画の立て方から、編集の方法、広告・販売のノウハウ、SNS戦略など、「本が売れない時代」の出版業界で必要なことが詳細かつ具体的に記されている。 |
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