仕事

累計発行部数2000万部以上の編集者が明かす、「スケジュールは“分刻み”」超マルチタスクでも大ヒットを生み出す意外な仕事術

話題になったものを「自分だったら」という視点で見る

草下シンヤ インプットに関しては「どんなジャンルでも話題になっているものは、ひと通り見るようにしています。売れるような特性がある、ということなので」と話す。その中には、イマイチなものもあるはずだが……。 「基本的には意地悪な思考をベースにインプットしない方がいいですよ。あえて誹謗・中傷をするために情報を探す人もいますが、それは負の感情だから、腐ってしまう。豊かじゃないし、育ちません。ポジティブに『楽しもう』『いいところを見つけよう』と思って見たものだけが蓄積されていき、いつか成熟させることができるんです」  草下さん独自の仕事術が光るのは、その先だ。 「ただ、もしもすごい話題になってるのに『イマイチだな』と思ったら、実はこれがいい企画になるチャンスなんです。自分が『何かが足りない』と思ったということは、同じように思った人もいるはずなので。 『こういう観点だったらもっと面白くなるな』『自分だったらこうするな』という視点を意識すると、アイデアが出てきます。ヒットしている商品の特性のところから、自分なりのものをアジャストすれば、新しい企画になるんですよ」  例えば、草下さんは『13歳のハローワーク』(幻冬舎)を読み、「これで自分がよく知る裏社会バージョンも作れば面白いのでは?」と思って『裏のハローワーク』(彩図社)を作った。他にも『読めないと恥ずかしい漢字』(河出書房新書)を読んで、「自分は漢字を読めるけど書けないことが多いな」と思って『書けないと恥ずかしい漢字』(彩図社)を作った。  このように自分なりの視点に置き換えることの他にも、大事なのはインプットの“量”だという。 「何かを作り出す時は、自分の中に積み重なっている情報や感覚から、その都度で必要なものがピックアップされるんです。5のインプットから、5のアウトプットは生まれません。本だけでなく、映画、絵画、音楽……それらはすべて、脳に刻まれています。どれだけインプットを続けて蓄積したかが、勝負になってくるんですよ」  いろいろなものに興味を持ち、引き出しを増やしていく。こうして作られたもののひとつが、『文豪たちの悪口本』(彩図社)だ。草下さんといえば“裏社会”のイメージが強いので、意外に思えるが……。 「中原中也が好きで、昔からよく読んでいたんです。彼はすごく毒舌で、そんな彼の手紙を読んでいた経験から、あの本が生まれました」

「自分が面白いと思えることが一番」

 膨大なインプットの中から、面白いものをすくい上げ、ビジネスになるものを見つける。これは自身で実践するだけでなく、編集長として後輩たちにも伝えてきたのだという。 「僕はよく『君にしか作れない企画を出してほしい』と、会社の人間に言ってきました。企画で大事なのは、オリジナリティです。自分が何かのオタクになるか、趣味に走ってみれば、きっと読者はついてくるんです。僕もある意味では、裏社会オタクだと思います。それを見たい人がいるから、商品になるんです」  まずは自分が「面白い」と思えることが一番で、「お金のために仕事をしたことはありません」と断言する。 「編集でも創作でも、がんばってもうまくいくとは限らないんです。前の作品が売れても、次の作品が売れるなんて全然わからない。ただ、努力することで、その可能性をあげることはできます。そうやって一生懸命取り組むことが大事なんです。  自分も楽しんでいると、相手にも伝わります。以前、読者から『本をまるまる一冊、初めて読めました』という感想をもらったことがありました。あれはすごく嬉しかったですね」 ——彩図社を退職し、今後は編集者から作家業をメインにシフトする予定で、YouTubeの企画と漫画原作に仕事を絞っているという草下さん。てっきり時間ができたと思いきや「漫画原作は9本になりそうで、まだまだ忙しくなりそうです」と笑う。  草下さんは、さまざまな形でこれからもヒット作を生み出し続けていくのだろう。 <取材・文/綾部まと、編集・撮影/藤井厚年>
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother
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ヒットを生む技術 小規模出版社の編集者が“大当たり”を連発できる理由 ヒットを生む技術 小規模出版社の編集者が“大当たり”を連発できる理由

本書は、小規模出版社でありながら尖った企画の「ヤバい本」でベストセラーを連発する異色の編集者/作家・草下シンヤ氏の「ヒットを生む技術」を網羅したビジネス書である。企画の立て方から、編集の方法、広告・販売のノウハウ、SNS戦略など、「本が売れない時代」の出版業界で必要なことが詳細かつ具体的に記されている。

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