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「障害は個性ではない」。吃音を持つ開業医が伝えたい“あきらめずに悪あがきすること”の重要性

吃音があることで生じた実生活での苦労

北村直人院長

患者を呼び出すためのマイク。1回も使っていない

――他にも、タクシーを止めても言葉が出ずに乗車拒否される、電話をかけると不審者扱いされ切られる、デパートで気持ち悪がられて担当者が交代するなど、障害があることで受けるデメリットは数限りない。 北村:幼少時から吃音がありましたが、勉強も体育も得意で、話すとき以外には、何も症状はありません。話すときにも、毎回どもるのではなく、全くどもらないこともあれば、どもって話にならないこともあります。自分が身体障害者に該当するという認識はありませんでしたし、思われたくもなかった。親からは、小学校に入ったら治る、20歳になったら治る、などと励まされてはいました。しかし、いっこうにどもりはなおりませんでした。 吃音があると恋愛も難しく、どもりが出ない間、あるいは、どもりをうまく隠せている間はいい感じになれたとしても、どもりがでた時点で、即ジ・エンドということが多々あり、いわゆる合コンに呼ばれても、どもりが怖くて、何も会話せず、発言すらせずに終了ということがほとんどで、もっぱら安全パイの人数合わせ的な感じすら。お見合いをしたとしても、酷くどもった時点で即お断り。吃音など気にしないという方としかご縁は生まれません。結構な吃音のある私にとって、電話は敵であり、今のようなネット環境がなかった時代に恋愛しようとしていた私には、努力だけではどうしようもない恋愛、婚活は相当ハードルが高く、努力すれば何とかなりそうな受験のほうがまだましでした。 私の場合は、発語する際に言葉が出ない、出てきにくい吃音です。最初さえ出てくれれば、息が続く限りはどもりません。どもりそうなとき、別の出てきやすい単語に置き換えられないかを考え、試したりします。最初の言葉を発するために、何度も何度も何度も自分の中で言いやすい言葉を声を出さずに話し、それから続けるようにして発語しようともしますが、だめなときはダメ。別の単語に置き換えてどもらない場合はよいのですが、それでもどもる場合、どうしようもありません。あまりにどもりが続くと「ま、いっか」と、話すのをやめてしまいます。 こうしたことで、コミュニケーションが難しくなり、うまく気持ちや考えが伝わらなかったり、間違って取られたりします。勢いづけるとどもらずに済むケースもあるのですが、勢いづけると、声が大きくなりがちで、内容によっては、威圧的に取られてしまいがちです。また、息継ぎをすると、息継ぎ後は、また、言葉の出だしとなるため、どもる可能性が出てしまうため、何とか、息継ぎ前に多くを話そうとして、早口になりがちです。このため、幼少時には、親族から、活発に話す兄や従弟と比較され、「あんたは無口で、根暗やなあ」とよく言われました。

事前問診の導入は不可欠だった

――中学や高校は兄や親戚とは違う学校であったため、学校の共通の話題に入れないということもあったという。 北村:話そうと思っても、最初の言葉が出せないため、「ま、いいや」となって、会話が少なくなってしまいます。私と友達になってくれる友人らは、いい輩が多いな、と思っているのですが、もしかすると、吃音がある私を受け入れられる方々だけが友人となってくれていて、選抜されているのかも知れません。 吃音に関する対策の1つとして、毎月数万円をかけて、WEB問診、WEB予約などを開院当初から導入しました。事前の問診がないと、症状を聞く際に、毎回吃音と戦う必要があり、吃音がひどいと、問診が進まず、診察がすすみません。事前問診を導入することで、いつ頃から、どういう症状があるのか、どういう検査が必要そうか、どういう検査を希望されているか、既往歴はどうか、家族歴はどうか、薬はどうか、など情報を得ることができます。WEB問診を導入することで、受診する本人の調子が悪い場合でも、ご家族が事前に詳しく入力することもできます。 事前問診があるかどうかで、吃音がない医師にとっても、メリットは大きいと思いますが、吃音がある場合、無駄に発語と戦わなくても、必要な情報が得られることができ、問診で足りないことを補足的に質問すればよい、ということになり、負担が大きく減るということは、吃音がない健常者には到底理解できないことのようで、受付から問診をお願いしてもらっても拒絶される方は少なくなく、拒絶されるからか、受付も、はなから問診の案内をしない、ということも多々あり、どうやって吃音という障害を克服する形で外来をこなしていくか、悪戦苦闘しています。
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吃音がない人の感覚は想像できない
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立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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