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薬、iPhone、財布…“チェックリストの刺青”を腕に刻んだ女性の半生。薬を飲み忘れ「やらかした」事件を経て

 女性の左腕には、菊の刺青が彫られていた。だがより目を引くのは、複数個のチェックボックスとその右に刻まれた文字だ。Litium、iPhone、Wallet――と続く。女性ラッパー・百合馨さん(36歳)は、左腕の文字を指差して言う。「薬とかiPhoneとか財布とか、日常的に必要なものをよく忘れてしまうので、それなら彫っちゃおうかなと思って」。軽やかにそう語る彼女の、人生に迫る。
百合さん

百合さん

刺青は「いつかは入れると思っていた」

 百合さんは大阪府で生まれ育った。刺青が身近にある環境だったという。 「銭湯などに行くと、背中に模様がある人は少なくありませんでした。大人になると刺青を入れている友人は多かったですし、彫師の知り合いもたくさんいましたから、いつかは入れると思っていました。ただ、これまでは入れたいものがなかったんですよね」  百合さんの身体に彫られた刺青は、冒頭で紹介した菊のほか、チェックボックスと文字の羅列のみ。これらの文字は、百合さんの人生に深く関わっているということだ。 「私には双極性障害があります。医師の診断によると、発達障害起因の障害だということでした。また、ADHD(注意欠陥・多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)の傾向もあって、集中しすぎるときと散漫なときの落差が激しく、端的に言って非常に生きづらいんです。すでに精神障害による障害者手帳も取得しました」

薬を飲み忘れないため、身体に刻むことに

百合さん

百合さんの腕に刻まれた“チェックリスト”

 チェックボックスの最上段に彫られた「Litium」は、精神神経用剤に分類される薬剤だ。なぜこれを最初に身体に刻んだのか。 「実はラップの有名な大会の予選に出場したことがあったのですが、そこでやらかしてしまったんです。あるバトルの2バース目に、事件は起きました。ハイテンションになると怒りっぽくなってしまう傾向があって、その日、バチンとスイッチが入ってしまいました。観客に向かって急に怒鳴り散らし、審査員にメンチを切って、会場の床を蹴るように踏みつけて、退場してしまったんです」  原因は、服薬のし忘れによるものだったのではないかと百合さんは話す。 「ADHDの傾向があるので、飲み忘れてしまうんですよね。しかし薬を飲まないと、双極性障害と付き合っていくことは難しいんです。そこで、絶対に飲み忘れることのないように、身体に刻むことにしました。もちろん、最初は油性マジックで腕に書いたりしていたのですが、時間が経つと汚くなってしまうんです。それなら、きちんとした彫師に彫ってもらおうと考えたんです」
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家族を振り回していた父親と真面目な母親
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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