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10年前に自宅のトイレで首を吊った56歳男性の今。難病を発症、余命宣告によって「気が楽に」

 自殺で命を落とす者たちがいれば、未遂で生き永らえる者たちもいる。“死ねなかった”人々はどんな後遺症を抱え、その後どのような人生を歩むのか。彼らの声に耳を傾け、“生きること”の意味を考える。

「気づいたら吊っていた」妻の不倫をきっかけに…

[自殺に失敗した人]が生きる人生

坂本 誠さん(仮名)56歳・無職。離婚後は外出することもなく、ワンルームのアパートで“その時”を待つ。身の回りの世話はヘルパー頼み。趣味は「昔のアニメを見ること」

 10年前に自宅のトイレで首吊り自殺を図ったという、男性を訪ねた。現在は重度の間質性肺炎という病を抱え、薄暗いワンルームの部屋で一人暮らしている。 「自殺はトイレに行くような感覚。気がついたら、死に神はすぐ隣にいたんです」  当時をそう振り返るのは坂本誠さん(仮名・56歳)。自殺の理由は、妻の不倫だった。 「家業の理容室の経営が厳しくなり、夜もアルバイトを入れて働きづめの毎日でした。私はホテルのレストランの厨房で、妻はスナック。子供が2人いたので、もう必死で。それなのに、妻は若い常連客との浮気に走ったんです」

「『疲れたなあ』とため息をついて……」

 当時の怒りを思い出したのか、一気に眉間にしわが寄る。 「妻は『彼は悪くない』と相手をかばい続けた。毎日怒鳴り合い、私はうつ病を発症。そして限界を迎えました」  その日は昼の理容師の仕事に加え、夜は忘年会シーズンでバイトが立て込み、疲れ果てて意識が朦朧としていた。 「玄関の扉を開けて、トイレに向かったんです。『疲れたなあ』とため息をついて……」  記憶はそこで途絶えていた。
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「次に目覚めたときは、病院のベッドの上でした」
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