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「子どもを早く大人にしようという圧力が強すぎる」養老孟司が子どもの自殺増加に警鐘

 厚生労働省が警察庁の統計をもとに発表した2024年の自殺者数(暫定値)は2万268人。統計のある1978年以降では2019年に次いで、過去2番目に少なかった。一方で、小中高生の自殺者数は過去最多の527人に上った。  子どもの自殺増加に警鐘を鳴らしてきた解剖学者・養老孟司氏は新著『人生の壁』(新潮社)でも、子どもの自殺について取り上げていた。

子どもの自殺増加に警鐘を鳴らす養老孟司 ©新潮社

「子どもを早く大人にしようという圧力が強すぎる」

「まず大前提として、自殺を止める万能な方法はありません。人によって状況は違うので、安易にこうすればいいとは言えないんです。ただ日本全体で見れば、大人も子どもも『楽しくない社会』になっていると感じる人が多いのでしょう。  特に、子ども時代というのは基本的には活力があって人生でいちばん楽しいはずの時期なのに、変な社会ですよね。大人が勝手に『こうすればこんな風に成長するはず』と安易に決めて、やらせていることが多すぎるのではないでしょうか。実はそんな風に教育しても、その通りに成長するわけではありません。今は子どもを早く大人にしようという圧力が強すぎる。子どもを“大人の予備軍”だと勘違いしているんです」

人間が生きていくうえでは、意味のないことが必要

 思考や知識偏重の社会を“脳化社会”と名付け、養老氏はその弊害を指摘してきた。 「何もせず公園でぼんやりする。花鳥風月を感じる。人間が生きていくうえでは、そういう意味のないことが必要です。しかし脳化社会では、何でも言語で表現できて、何でも『意味』があると勘違いしている人が多くなります。だから、みなさんも『生きる意味』を求めすぎてしまうのではないでしょうか。  でも自然にあるものは、なぜ存在しているのか説明できませんよ。あらゆる生命が存在しているのは『行きがかり』のようなもの。自然の中にいれば、『生きているのだからしょうがない』と思えてくる。だから、生きるうえで必要な無意味さを学ばせるためにも、子どもはなるべく上手に放っておいたほうがいい。外で遊ばせて、自然に触れさせるほうがいいんです」
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なぜ自殺をしてはいけないのか?
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