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“給食無償化ブーム”の中、あえて値上げに踏み切った自治体の苦悩「子どもの栄養のためにやむを得ず…」

 全国的に急拡大する給食費無償化政策。いまやわざわざ無償化地域に移り住むファミリーもいるほど。タダで嬉しいはずなのに子供や親からはなぜか不満の声も出ている。“無償化ブーム”がもたらす負の側面とは?

ブームに逆行?値上げに踏み切る自治体の苦悩

[給食費無償化ブーム]の功罪

日進市の普段の給食メニュー。値上げは現状維持のためで、特別値段が高いものを使用するわけでない

 全国で給食費無償化が進むなか、「値上げ」に舵を切る自治体もある。  愛知県日進市は、今年4月から9年ぶりに値上げする方針を決定。令和7年度の保護者負担の給食費増加額は、実質1食あたり小学生が30円、中学生が35円となる。 「これまでは給食の質や量を維持するために、値上げ分を公費で負担してきました。しかし、毎日提供しているごはんや、牛乳の値上がりの影響が大きく、持続可能な安心で美味しい給食を提供するためにやむを得ず、今回給食費を適正価格に改定することにしました」(市の担当者)  同時に給食を“見える化”するという試みもスタートした。
[給食費無償化ブーム]の功罪

市制30周年を記念した「楽しいがいっぱい給食」実現のためクラウドファンディングを実施した日進市

「値上げ前から、市民に向けて毎月20人ほど大人が実際に給食を味わえる“おいしい給食体験会”を開催しています。子どもたちが普段どんなものを食べているか、このメニューを継続させる必要性などを実感していただけていると思います。値上げに関して、一部の市民から値上げ反対の署名簿や請願書が議会に提出されましたが、結果的に不採択になりました。これからも、給食を見える化したり、食の大切さを地道にお伝えしていきたいと思います」(同)

子供たちにふさわしい給食のためにやむを得ず値上げを

 また、福岡県久留米市は’23年にも値上げを行ったが、今年2月13日にさらなる値上げを発表。市の担当者が苦しい台所事情を話す。 「全国的に無償化が進むなかでの値上げは、非常に心苦しい。ただ、無償化できるのは、人口規模が小さい自治体や、財源が豊富な自治体が多い。久留米市で無償化するとなると、新たに10億円以上の財源が必要になります。東京都などでは、都から各自治体への補助金があるため無償化が進んでいますが、それを全国の都道府県が同じようにやるのは難しいと思います」(市の担当者)  発表内容によれば、’25年度は値上げ分を市が全額負担する方針だが、’26年度からは市の負担分を減額。保護者の負担が増える見通しだ。 「簡単に値上げを決定しているのではなく、安い食材に変更するなど献立に工夫を凝らしたうえでのこと。値上げに関して厳しい目を向けられるのは承知のうえですが、成長期の子供たちにふさわしい給食を提供するために、必死に物価高騰と闘っていることもわかっていただけたら嬉しいです」(同)  負担を減らすための無償化か、質を担保するための値上げか。物価高のなかで自治体と親の苦悩は続く。
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「全国一律給食費無償化」は実現可能なのか?
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