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資生堂が「108億円の巨額損失」を計上。 米州・中国事業が回復せず、「TSUBAKI」の売却も誤算続き

痛かった「中国事業停滞」

 売上においては、中国事業が出遅れています。0.8%の増収。現地通貨ベースでは5.3%の減収でした。資生堂にとって、中国事業は売上高全体の1/4を占めており、日本に次ぐ主力事業。ここの停滞は会社の成長に大きく影響します。  かつて資生堂などの日本の化粧品は、中国において安心・安全という絶対的な地位とブランドを確立し、人気を博しました。しかし、2021年に中国政府が国内の化粧品における規制緩和を行ったことで、安価なブランドが次々と登場。中国の景気停滞を相まって、格安ブランドの人気が高まりました。高級志向の資生堂がシェアを失っていったのです。  2025年12月期においても、中国事業は1%程度の減収を見込んでいます。資生堂には価格面で対抗できるブランドがなく、反転攻勢に出る武器が欠けています。また、構造改革を実施して一部の店舗や事務所の閉鎖も進めました。  資生堂は中国マーケットにおいて、規模を追わない姿勢を鮮明に打ち出しています。事実、中国事業のコア営業利益は122億円であり、1.8倍近くに急拡大しています。資生堂は2017年12月期に売上高は1兆円を超えて大躍進を続けていました。それを支えていたのが、中国事業の好調。現在はその影がなく、成長に向けたエンジンが欠けている印象を受けます。

ファイントゥデイの持株は安値で手放した?

「TSUBAKI」の売却も上手く行っているように見えません。  資生堂は2021年にパーソナルケア事業を投資ファンドのCVCキャピタルパートナーズに1600億円で売却しました。大再編を行ったのは、コア事業に経営資源を集中させるため。賛否両論あるものの、このM&Aはコロナ禍で商環境が激変する中で、選択と集中を進めるために必要なものだったと見ることができます。  ただし、資生堂は売却後も継続的に一部の株式を保有し、投資ファンドと共同で事業運営を行っていました。後にこの会社はファイントゥデイという社名に改めます。資生堂はファイントゥデイの持株20%を2024年6月末に売却。128億円の売却益を出しています。すなわち、100%の価値を650億円程度と判断していることになります。  ファイントゥデイは上場準備に入り、2024年に公開直前まで行って中止になった経緯があります。その際の想定価格は2150円。この価格に基づく時価総額の試算値は2194億円です。  この持株の売却については、2024年11月の決算説明会で機関投資家からつっこみを入れられ、チーフファイナンシャルオフィサーの廣藤綾子氏は「今後キャッシュ重視の財務ガバナンスに切り替えていきたいという思いを私自身は持っています」とコメントしました。  資生堂が持株を売却した相手はCVCキャピタルパートナーズですが、投資ファンドとの交渉が有利に進まなかった跡も見て取れます。  今期は米州で10%台の増収を計画しています。「Drunk Elephant」ブランドを立て直し、大幅増に導くことができるのか。ここが今期一番のポイントとなるでしょう。 <TEXT/不破聡>
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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