エンタメ

「革命への確信」を49年間追い続けた男。東アジア反日武装戦線「さそり」元メンバー桐島聡の逃亡生活を元日本赤軍の映画監督が描く

逃走=闘争というメッセージ

(c)「逃走」制作プロジェクト2025

そして、インタビュー当日。まず、聞いてみたかったのは、桐島が生きていたことを知った時の感想だ。すると、足立監督は、次のように答えた。 「運動や活動分野でダブっているところはなく、桐島のことは知らなかったです。ただ、遠目にも49年も逃げていたということについての尊敬の念はあった。海外出張を終わらせて日本に帰ってきた時には、僕が密かに桐島と合流しているのではないかと思って、警察から『桐島知ってるでしょ』と聞かれていたりもしていたけれど、本当に何も知らなかった。桐島発見のニュースを見た時には、そういうことだったんだ、と感じました。知人や友人と接触していたら迷惑が掛かってしまう。だからそれは、一切しなかった。 そして、未だ逃げている人や亡くなった人が抱き続けている思いも含めて引き受けたから49年間も逃げ続けることができた。連続企業爆破事件は革命運動ではなくキャンペーン闘争です。なので、最後に自分の本名を明かしたのは、自分は逃げ切った、すなわち、闘い切った、ということをわざわざメッセージにして送りたかったのではないかと。「逃走=闘争」というメッセージです」 また、足立監督は、1972年5月のテルアビブ空港乱射事件が何よりショックだったと続けた。別名、リッダ闘争。80人が重軽傷を負った無差別テロだった。同年2月には、連合赤軍によるあさま山荘事件も発生。「戦死する権利はあるが、仲間を殺す権利はない」としながら、運動が泥沼化し、沈没せざるを得ないことを外地で悟ったと語った。 なぜ、運動のために人を殺してしまったのか。そのことに対する歯がゆい気持ちは、劇中で描かれる桐島の贖罪を描いたことに表れているのかもしれない。

足立正生にしか撮れない

一方、プロデューサーの平野さんに映画製作のきっかけを聞くと、「酒を飲みながら話していて、桐島の話になったんです。桐島は意図的に人を殺していない。なので、しばらくの間刑務所に入って、出て来てまた活動することもできたはず。なのにどうして49年間も逃げていたのだろうかと…。それでこれを映画にできるのは足立さんしかいない、とそこにいた全員の意見が一致して足立さんに電話したんです。そうしたら、脚本はもうできてるよ、と言われて。余計な電話しちゃったな、と思ったけど(笑)、足立さんの華麗なる経歴を考えると、もう作らないわけにはいかないと。桐島が亡くなってから5日後のことでした」 脚本は30回以上の改訂を重ねたとのことだったが、本作のクライマックスは桐島と自己の分身であるかのような僧侶との対話のシーン。桐島が所属したのは、東アジア反日武装戦線。1974年の三菱重工ビル爆破事件爆弾の火薬量を間違ったことで、多数の死傷者を出しているが、その実行部隊は「狼」部隊であり、桐島の所属した「さそり」とは異なる。しかし、お遍路のシーンなども然り、劇中の桐島は贖罪の気持ちと逃走し続ける現実の自分との間で苦悩し続けていた。
次のページ
革命への「確信」とは
1
2
3
4
ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。

記事一覧へ

『逃走』

監督・脚本:足立正生
出演:古舘寛治 杉田雷麟 中村映里子
企画:足立組
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 統括プロデュ―サー:小林三四郎
  アソシエイトプロデュ―サー:加藤梅造 ラインプロデューサー:藤原恵美子
  音楽:大友良英
撮影監督:山崎裕 録音:大竹修二 美術:黒川通利
スタイリスト:網野正和 ヘアメイク:清水美穂
編集:蛭田智子 スチール:西垣内牧子 題字:赤松陽構造 キャスティング:新井康太
挿入曲:「DANCING古事記」(山下洋輔トリオ)

【2025年|日本|DCP|5.1ch|110分】(英題:ESCAPE)©「逃走」制作プロジェクト2025
  配給・制作:太秦  製作:LOFT CINEMA 太秦 足立組
公式:kirishima-tousou.com