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「革命への確信」を49年間追い続けた男。東アジア反日武装戦線「さそり」元メンバー桐島聡の逃亡生活を元日本赤軍の映画監督が描く

革命への「確信」とは

(c)「逃走」制作プロジェクト2025

僧侶が「自決した仲間が羨ましいのだろう?」と問うと、桐島は「羨ましくはない」と答える。すると、僧侶は「お前は今も煩悩まみれだな」と切り返す――。 このシーンで桐島は「革命への確信」という言葉を口にし、僧侶は「革命への確信」を鍛えることはなく、ロマンチックに革命に憧れていただけだと断罪する。煩悩の中で逃げ続けることの苦しさを吐露する桐島。自らも運動に身を投じていた監督自身にとって、このシーンに込めた想いはどのようなものだったのだろうか。 「例えば、運動を辞めて「転向」したり、中小企業の父親の跡を継いだような人を「あいつは日和った」などと揶揄する風潮もありました。しかし、彼らは日和見なんかじゃない。日常という闘いの中で、もう1度自分たちのしてきた「闘い」を捉え直して生きているのではないかと。それに比べると宗教に逃げ込む方が甘いような気がして…。 桐島は日雇い労働者として働き、時折、酒やロックを楽しみながらつつましい日々を送っていました。転向者や日和見と言われても、〝革命への確信″を日常の中で捉え直すことに意味がある、という境地に桐島は到達したのではないかと。そう思って、あのシーンを書きました」

獄中の俳句に触発されて

桐島の死の直前のシーン。東日本大震災の映像が流れた後、桐島は三菱重工本社ビル爆破事件の実行犯である「狼」部隊のメンバー、大道寺将司が獄中で詠んだ句を収めた『棺一基』(太田出版) を本屋で手に取る。続いて、死刑判決後の心情を詠んだとされる「大逆の鉄橋上や梅雨に入る」を池のほとりで音読。そして、「革命をなほ夢想する水の秋」「向日葵の裁ち切られても俯かず」「狼の思ふは月の荒野かな」が病室で苦しむ桐島と前後して流れる。 大道寺は獄中で「死者たちに如何にして詫ぶ赤とんぼ」「加害せる吾花冷えのなかにあり」など、人命を奪ったことを悔いる句を残しているが、敢えて上述の句を紹介したのは、どのような意図があったのだろうか。 「大道寺の獄中で詠んだ句には、死刑を言い渡されても、命を張って贖罪をし続けるという気持ちの他に、やはり、革命の志が消えていないことが表れています。桐島はそのことを句集から読み取った。 では、自分はどうするのか?その自問自答から本名を名乗って自分の死をメディアにして志を最期に表現したかったのではないかと考えました。それは、決して自分の自己顕示欲や仲間との絆のためではなかった。ラストへかけてのシーンは桐島の最期の革命の到達点を僕や平野さんが解釈して、映画にして表現した結果です」
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ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。

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『逃走』

監督・脚本:足立正生
出演:古舘寛治 杉田雷麟 中村映里子
企画:足立組
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 統括プロデュ―サー:小林三四郎
  アソシエイトプロデュ―サー:加藤梅造 ラインプロデューサー:藤原恵美子
  音楽:大友良英
撮影監督:山崎裕 録音:大竹修二 美術:黒川通利
スタイリスト:網野正和 ヘアメイク:清水美穂
編集:蛭田智子 スチール:西垣内牧子 題字:赤松陽構造 キャスティング:新井康太
挿入曲:「DANCING古事記」(山下洋輔トリオ)

【2025年|日本|DCP|5.1ch|110分】(英題:ESCAPE)©「逃走」制作プロジェクト2025
  配給・制作:太秦  製作:LOFT CINEMA 太秦 足立組
公式:kirishima-tousou.com