ライフ

年収2000万円から転落した40代男性。タワマン3LDKが“ゴミ屋敷”に変貌、実家に戻るまでの一部始終

順風満帆な生活から一転、うつ病でひきこもりに

ゴミ山 ご依頼者さまはマンションを購入した当時、大手上場企業の営業職として活躍されていました。若くして年収は2000万円を超え、仕事も順調。その勢いに乗って単身でタワーマンションを購入し、独身貴族の生活を満喫されていたそうです。  ところが、業務上の人間関係のトラブルがきっかけで退職することに。その後うつ病を発症し、人との接触が難しくなってしまいました。  一度は再就職したものの、心身の不調から上手くいかずに退職。自宅に引きこもるうちに、ゴミ出しすらできなくなっていったといいます。 「マンションのゴミ置き場に行くためには、エレベーターを使わないといけません。他の住人と顔を合わせるのが嫌で、最初は夜中にこっそり捨てに行っていました。でも、深夜でもエレベーターで誰かと一緒になってしまうことがあり、耐えられなくなって部屋にゴミを溜め込むようになったんです」(ご依頼者さま談、以下同)  清掃を依頼する契機となったのは、給湯器の故障です。室内に設置されていたため、ひきこもるようになってからは、居留守を使って設備の定期点検を断っていました。その結果、何らかの原因で給湯器が故障し、お風呂に入れなくなってしまったそうです。 「修理するためには業者を呼ばないといけない。けど、給湯器が収納されている扉はゴミに押しつぶされて開かない。こんな部屋を人に見せられないし、周囲に知られてうわさが立つのも嫌で。ちょうど、通院を始めて病状がましになり、『社会復帰に向けて頑張っていこうかな』と思い始めた時期でもあったので、意を決して依頼しました。うつの真っ只中のときは、真っ暗なトンネルの中にいるようで、誰にも相談できなかったですね……」

「もうローンも払えない…」崖っぷちの状況

ダンボール 今回は、“ご依頼者さまのこれから”を見据え、見積もりの段階からじっくり相談に乗らせていただきました。弊社では見積もりの際、まず現場へ赴き、ゴミの量や搬出ルートを確認します。今回の現場ではゴミが多く、さらに駅直結マンションのため搬出ルートが複雑で距離が長いこともあり、大量の人員が必要と判断しました。  ご依頼者さまから「お金がない」と打ち明けられたのは、高額になった見積もりを提示したときです。貯金を切り崩しながらの生活で、資金に余裕がないとのこと。私としても、放っておくわけにはいきません。詳しくお話を伺って明らかになったのが、「貯金が底を尽きかけ、もうローンも払えない」という、まさに崖っぷちの状況でした。  人が怖い、お金もない、ローンの支払いもできず、お風呂にも入れない。それでも周りには気づかれたくない。八方ふさがりな状況のなか、「死ねば保険でローンが払える。死んだほうがいいのかな」と考えるほど、ご依頼者さまは追い詰められていました。  ゴミ屋敷清掃は、ただゴミを片付けるだけの仕事ではありません。ご依頼者さまの生活や人生を立て直さなければ、根本的な解決にはならないのです。結局今回は、物件を弊社が買い取るという形で、彼の経済的負担を減らすことになりました。
清掃&リフォーム後の部屋

清掃&リフォーム後の部屋

 引越し先についても話し合い、「無職で収入がないため、安い物件に移っても家賃を払うのは難しい」との判断から、マンションから10キロ圏内のご実家へ戻られることに。ゴミの片付けが完了した後、引っ越し作業も弊社で担当しました。  しかし高齢のご両親は、息子の帰りを快く思っていなかったようです。荷物を届けた際、お父さまが「このくそ馬鹿息子が! のこのこ帰ってきやがって! 死んでまえ!」と大激怒。ご依頼者さまは半泣きになっており、居合わせた私たちも「スタッフがいる前でそこまで怒らなくても……」と立ちすくんでしまいました。  後日、ご依頼者さまから「もし給湯器が壊れなかったら、片付けする気にもなれず、あのままゴミの中で孤独死していたかもしれない」とのお言葉をいただきました。大げさかもしれませんが、清掃を通じて人を救えた気持ちになった瞬間です。
次のページ
タワマンブームの陰で起こりうる想定外のリスク
1
2
3
1980年生まれ、大阪出身。A-LIFE株式会社代表取締役。祖母の遺品整理を経験したことで、遺族の心労に寄り添う仕事をしたいと考え、2007年より個人商店として「関西クリーンサービス」を創業。2010年にはA-LIFE株式会社を設立し、本格的に遺品整理・特殊清掃の事業を開始する。YouTubeチャンネル「関西クリーンサービス」にて孤独死・ゴミ屋敷・遺品整理の現場を紹介し、社会に警鐘を鳴らし続けている。X:@KAMESAWA_Kclean

記事一覧へ
おすすめ記事
【関連キーワードから記事を探す】