更新日:2012年08月20日 20:09
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東電株主総会 実は「怒号ときどき爆笑」

 例年の3倍強、9303人もの株主が参加し、過去最長の6時間9分という持久戦に発展した東京電力の株主総会。予想通り、怒号が飛び交う大荒れの総会となったわけだが……実は奇妙な笑いに包まれる場面も。
TEPCO sokai

大荒れの東電株主総会では、幾度となくヒートアップした株主が壇上前まで詰めかける場面がみられた。警備員に制止されながらも、株主は質問の機会を求め続けた

 朝9時、開会1時間前の会場、東京都港区の「ザ・プリンス パークタワー東京」には早くも長蛇の列が。ほど近い芝公園では30℃近い暑さの中、防護服を着た環境保護団体「グリーン・ピース」や、福島県から足を運んだ団体が拡声器を手に抗議活動を実施。緊迫ムードが漂う。 「福島第一原発の事故や供給力不足による計画停電により、株主ならびに広く社会に多大に迷惑とご心配おかけしておりますことを、心より深くお詫びします」  午前10時。開会を知らせるブザーの後、勝俣恒久会長がこう謝罪すると壇上の役員がお辞儀。約5分間のあいさつを終えて清水正孝社長による事業報告(平成22年度報告書をそのまま朗読)、監査役会による報告……ここまでは時折ヤジが飛ぶ程度で平穏無事な展開だった。  だが、勝俣会長(議長)が「株主から事前に190問の質問を頂いています」と前置きし、その質問に答えていこうとした直後に起きた「動議」により、空気は一変する。  株主の女性が質疑応答時間を十分に確保するよう求める議事進行上の動議と勝俣議長信任を問う緊急動議を起こしたのだ。 「初めに(勝俣会長の)挨拶がございましたけど、どれも“主語”がありませんで、まったく責任がはっきりしない挨拶でした。(中略)今回の事故により何人もの人が命を絶たれている中で、今日のようなやり方を強行するのは信じられません。本当に心から責任を感じられるのであれば、議長として議事を進めることはできないはずです」  動議の理由を終えると沸き起こる拍手喝さい。「その通りだ!」「さっさと辞めろ!」と怒号が飛び交い、「ご静粛にお願いします」と勝俣会長が制する場面も。議長自ら「議長不信任に賛成の方、挙手を」と賛否を問い、わずか5秒のスピード目測で「反対多数で否決」を決めたものだから、株主はヒートアップすることに。 「この会場だけでなく、廊下にもほかの4つの会場にも株主はいるのに、なぜ即否決と判断したのか?」⇒大株主の委任状を預かっているため、実は賛否を問わなくても結果がわかっていたことが後に判明し、さらに紛糾……。 「異常な災害と認識しているようですが、原子力賠償責任法に関して、事業者側が勝手に認識できるのですか? 事業者の賠償責任はないと言えるのですか?」⇒事業者が原賠法の適用を受けると判断できないことを認め陳謝。 「壇上の役員は皆、座ってますよね? 会場が小さいので株主の中には立ち見の人もいるんですよ。(中略)世が世なら切腹ものですよ!(土下座しろ!の怒号)」⇒ただただ陳謝……。  立て続けに浴びせられる質問に、防戦一方の東電役員陣。予想通りの展開だ。だが、中には妙に笑いをそそる質問もあった。 その1つが株主の女性による年金に関する質問。 「私の夫は一流ゼネコンに勤務していたんですよ。しかし、退職後は企業年金を一切受け取っていません。(中略)日本民族の将来について考えるなら、(東電役員が)企業年金を受け取るなんてことは許せません」  なぜ、旦那が企業年金を受け取らないのかは定かでないが、この女性がしきりに強調したのは「旦那が一流企業にいた」こと。「本当に旦那は超一流会社だったんですよ」と、“一流”を連呼しすぎて失笑が漏れることに……。  次に笑いを誘ったのは、総務部長の対応の悪さを糾弾すると見せかけて、知られざる事件を明らかにしようとした高齢の株主の質問。 「あの……“ハヤシ”という総務部長は失格ですね。折り返しの電話が一切こない。役員に聞いてみると、あの人は外部の人と話をしたがらないとういうじゃないですか。非常に腹立たしいです。次に元請けと下請けとの間で殺人事件があったことをご存じですか? ●●組。ご存じですか? 私は殺された人間のところまで行きました。一部の人には伝えましたけど、なんにもしないじゃないですか?」  突如、飛び出した爆弾発言に会場も鎮まり返る……。が、質問する株主に緊迫感は感じられない。さながらマギー司郎のように飄々とした話しぶりだ。さらに話は続く。  「私は物書きですよ。でも、そんなことで騒ぎを起こそうとしているわけじゃないんですよ。言っておきますけど、私は出版もやってますけど、あなたたちから広告をもらったこともないし、請求書を出したこともない。……ということで、総務部をもっとしっかりしたものにしてください」  結局、総務部の話に逆戻り……殺人事件は何だったの? 誰もが不思議に思うなか、その高齢者は「ということで、私はまた明日から総務部に連絡しますからね」と捨て台詞。奇妙な笑いに包まれたのであった。 (後編につづく) 取材・文/池垣完
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