SKE48の聖地「羽豆岬」を盛り立てた人々の思い【後編】
大盛況に終わった8月2日「美浜海遊祭2013 SKE48 SPECIAL LIVE SHOW」。愛知県知多半島の美浜町で開催されたこのライブに参加したSKE48ファンで、ライブ会場から南に下ること15キロ、同半島の突端にある場所を意識しない人はいないだろう。いまや完全にファンの「聖地」として定着した羽豆岬だ。
ライブの約一ヶ月前の7月4日、「羽豆岬」の歌碑が建てられた。アイドルソングの歌碑は珍しく、森高千里のヒット曲「渡瀬橋」が思いつくぐらいだ。さらに「羽豆岬」は’10年発売の「ごめんね、SUMMER」のカップリング曲にすぎず、「B面」の曲で歌碑が建った前例などないのではないか。異例の歌碑の誕生。そこに至るまでのさまざまな偶然と奇跡の連鎖、歌碑誕生までの3年にわたる軌跡をなぞった。
⇒【前編】師崎まちづくり協議会会長・鳥居恵子さんの奮闘
一方で「羽豆岬」の歌の運命を大きく変える出来事が起こった。年に一度、ファン投票でグループ楽曲の人気順位を決める発表形式のライブイベント、「リクエストアワー セットリストベスト50 2012~神曲かもしれない~」で、すでに卒業を発表していた平田璃香子が「大切な曲」と公言していた「羽豆岬」への投票が呼びかけられた。その結果、見事に1位獲得。会場は感動の渦に包まれ、歌唱中、平田ファンが「ランクインしたら羽豆岬の海を表現したい」と用意し配っていた青のサイリウムの光が会場を埋め尽くした。それは、「羽豆岬」という曲がSKE48のファンとメンバーの絆を象徴する曲へと昇華された瞬間だった。
リクエストアワー1位は「羽豆岬」歌碑建立への追い風になった。SKE48の知名度も昨年、NHK紅白歌合戦に単独出場を果たしたことで急上昇。日本を代表する作詞家、秋元康氏の作品であることも歌碑建立のポイントだった。町・県からの補助金で事業費4000万円の大半を賄った展望台と違い、地元が費用を負担する歌碑建立には慎重意見が出る可能性が高かった。にもかかわらず反対の声が出なかったのは上述の理由だけでなく中心となって調整にあたった鳥居さんの次のようなピュアな思いに関係者も共感できたからだろう。
「とにかく歌詞がすごかった。わたしは長年、師崎に住んでいますが、この土地のことをあんなすてきな言葉でまとめることなんてできない。秋元さんは天才としか思えません。これだけの歌を作ってもらったのに地元が何も応えないなんてことがあってはならない。そういう気持ちで絶対に歌碑を作ろうと努力しました」
そして7月4日、ついにSKE48「羽豆岬」歌碑除幕式がメンバー参加で開催された。式典で師崎まちづくり協議会会長でもある鳥居恵子南知多町議はこう挨拶した。
「2年半前に歌碑を作ることを決心してからは多くの方々の協力をいただきました。町の宝物になると信じております。この歌碑の歌は希望の歌です。ここを訪れる人が希望と夢と勇気を持って出発して行ける地点になってくれればいいと思います。わたしたちはいずれ消えていく運命ですが、この歌碑はずっと残ります。日本だけでなく世界中の方が訪れて、夢と希望を与えられて出発していく場所になってほしいと思います」
歌碑の製作者で彫刻家の山田將晴氏も式典に参加。製作で留意したことを語ってくれた。
「地元在住のグラフィックデザイナー酒井一さんが、ハートが羽ばたいているようなデザインをしてくれました。形は見る人によってハートや勾玉に見えるし、知多半島の形にも見えるでしょう。材質はバックの海に合う色をよく吟味して天竜川の辺りでとれる天竜石という丈夫な石を選びました。アイドルの歌だからといってポップな感じにはしていません。100年後、多少朽ちたとしてもきちっとそこに存在できるものにしたかった。歌詞は羽豆神社に使われているかなり古い字体に合わせた書体で刻みました」
また当日、メンバーは南知多町のコミュニティバス「海っ子バス」2号で移動。その場のノリでバスの窓ガラスに落書きサインをしたという。「たった10分くらいで描いていったけど、サインもなかなか工夫してあって驚きましたね。元気がいいコたちでちょっとファンになりましたね」とバスの運転手さんも顔をほころばせた。SKE48の地元での評判は「お礼の仕方からしっかりしていて人間性がすてきに思えた」(前出鳥居さん)、「めっちゃ、かわいかった!こんなおばさんにまで手を振ってくれて。娘はまゆゆ(AKB48)のファンですがSKEも好きみたいです」(師崎在住 40代主婦)などすこぶる上々だった。
⇒【画像】メンバーのサイン
土日には1時間に20人くらいが歌碑を見に立ち寄るという。しかし、展望台、羽豆神社、歌碑のある公園ともに茶店はおろか自販機すらなく、来訪者は一服することもできず立ち去るのが早い。南知多町の鈴木和芳商工観光係長は残念そうに話す。「(羽豆岬の歌をきっかけに)いろいろハード面では整備したが、ソフト面をどうするかが遅れている。周辺の受け皿が弱いのも事実。近くにゆっくり食事をできるところが少ないため、車で来た人は隣の美浜町にある大駐車場完備の魚料理レストランに流れることが多いようです」
ハード面の整備とSKE48メンバーによるアピールで3年前から続いている「聖地巡礼」の勢いはますます増している。今後は地元の人々のアイデア、企画力で本格的に観光資源としての価値を高めていく必要がある。羽豆岬のさらなる盛り上がりに期待したい。
取材・文・撮影/竹内一晴
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ