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日中軍事衝突を危惧して人民解放軍が入隊者不足!?

人民解放軍の研究施設で、子供たちに披露された踊るロボット

人民解放軍の研究施設で、子供たちに披露された踊るロボット

 集団でパラパラ風のコミカルなダンスを踊る、陸海空それぞれの軍服に身を包んだ兵士たち――実はこれ、中国国防部の公式サイト上で最近、公開された動画のワンシーン。しかもBGMは、中国ポップス今年最大のヒット曲、「小苹果」というからまさにオン・ザ・エッジである。  8月1日で人民解放軍は建軍87周年を迎えたが、お堅い軍のイメージからあまりにかけ離れたこの動画に「軍のサイトがハッキングされた?」と心配する声も上がった。しかしこれは正真正銘、国防部が制作した入隊募集のPR動画なのだ。  ちなみに昨年のPR動画は、その名も「青春の戦場」というタイトルで、勇ましい行進曲をBGMに軍の職務を紹介するという内容だったことから、その変わりようには隔世の感がある。街中に貼りだされる入隊募集のポスターにも、変化が見られる。北京市在住の日本車メーカー勤務・内田義隆さん(仮名・44歳)は話す。 「これまでは愛国心を煽るような、銃を持った兵士や最新兵器を大写しにした勇ましいポスターだったのですが、最近は、日本の萌えキャラのようにデフォルメされた兵士が『軍においでよ~』と呼びかけているものも目にします」  メディアを使ったイメージ戦略にも異変が起きている。広東省仏山市で貿易業を営む林田岳男さん(仮名・49歳)はこう話す。 「解放軍兵士の生活を紹介するテレビ番組をよくやっているんですが、テレビゲームやバスケットボールをしたり、恋愛事情に触れたりと、何かと『普通の生活ぶり』を強調している。ちょっと前までは訓練の苛酷さを強調し、兵士の頼りがいをアピールするような内容だったんですがね……。8月あたまに雲南省で発生した大地震の被災地での活動を伝える番組でも、地元民と気さくに談笑しているようなシーンが繰り返し放映されていました」  一方、日系メーカーに勤務する高島功夫さん(仮名・38歳)は、解放軍のPRイベントを目撃した。 「商業地区の広場で、解放軍鼓笛隊の演奏やパントマイムショーをやっていた。文芸兵と思しき美女軍団も大量に駆りだされ、お色気ポーズを決めていて、私も思わず入隊したくなりました(笑)」  ほかにも軍は、民間企業と踊るロボットや解放軍兵士となって尖閣諸島奪還を目指すネットゲームを開発したりと、軍民一体プロジェクトも進行中だ(『環球時報』など)。こうした解放軍のカジュアル化ともいうべき動きについて、中国事情に詳しいジャーナリストの富坂聰氏はこう話す。 「解放軍兵士は、有数の人気職業であり、入隊から弾が飛んでこない部署への配置まで、ワイロが横行していた。ところが、現政権下での反腐敗運動により、そうした悪しき習慣もなくなりつつある。一方、日本との緊張関係などから『近く戦争になるのでは』という危機感が募り、特に一人っ子世代の親たちは、我が子を軍に入れたくなくなっている。そんな状況で優秀な人材を確保するには、愛国心を煽るだけではダメ。まずは、軍の血なまぐさいイメージを払拭しようというのが狙いでは」  一見、おどけているようなイメチェンの裏には、強兵というしたたかな意図が隠れている!? <取材・文/奥窪優木> 週刊SPA!連載 【中華人民毒報】 行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

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