成田空港バス内の地獄の伝言ゲームは、まさかの壁で幕を閉じた。そして僕のウ●●は――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第31話>
―[おっさんは二度死ぬ]―
昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート!
【第31話】成田空港のバスに揺られて
成田空港はとても便利な空港だ。
もともと主に国際線が行き来する空港で、国内線の本数はそう多くなかった。都心からのアクセスも決して良いとは言えない立地の空港で、利用する機会はそうそうなかった。
同じく首都圏を代表する空港である羽田空港と比べると、どうしても利便性という面で見劣りする空港であることは否めないだろう。ただ。ここ最近の成田空港は様変わりした。とにかく便利になったのだ。
国内線を中心にLCC(格安航空会社)が多数乗り入れるようになり、LCC専用である第三ターミナルまで建設された。結果として、これが成田空港の起爆剤になったのだ。これがまあ、とにかく便利なのだ。
LCCは格安と謳うだけあって、とにかく格安だ。例えば東京から九州のどこかの都市まで行く場合、新幹線を利用すれば3万円くらいかかってしまう。羽田空港利用の旅客機でも、予約する時期で異なるが、正規料金で2万円から3万円、まあ安いのを見つけたとしても1万ちょっとというところだろうか。そこをLCCは6千円くらいでいったりする(2019年2月現在)。とにかく安い。頭おかしいレベルで安いのだ。
もちろん、安いなりの理由があって、簡単に欠航になったり、欠航時のフォローが十分でなかったりするのだけど、そんなものは関係ない。安ければいいのだ。6千円だぞ、6千円。僕のように取材や仕事であちこち行く人間は移動費を大幅に圧縮できるので本当に重宝している。もう一度言う、6千円だぞ、6千円。
その日も、九州のある都市から成田空港へと降り立った。夕方の便は同じように仕事を終えたサラリーマンや、東京に住む遠距離恋愛の彼氏にでも会いに行くのだろうか、若い娘さんたちで満たされていた。みんな6千円という格安の料金にやや興奮気味のように見えたのは気のせいだろうか。
成田空港の空は九州のそれより少しだけ冷たくて、ちょうど夕方と夜の境界線みたいな雲がボンヤリと浮かんでいた。そんな空の下で僕はピンチに陥っていた。
曖昧でファジーなうんこがお腹の中にいるのだ。
これは、いつも快便快調うんこで困ったことがないという世間知らずのボンボンには絶対に分からないだろうけど、本当にこまった状態なのだ。
うんこによる腹痛には様々なものがある。すぐに結果を要求する腹痛もあれば、まだまだ小康状態、というものまで様々だ。ただ、そのどちらにも属さない、けっこう激しい便意を伴う腹痛が来そうなのにそれが今ではない、もうちょっと先なんじゃ! という曖昧なものがあるのだ。
これが非常に困る。近い将来大変なことが巻き起こることは分かりきっているのに、まだこない。そして、そんな腹を抱えてここ成田空港から都心に向かって移動しなくてはならないのだ。鉄道に乗るなりなんなりするはずだが、下手に動こうものなら必ずそこで煉獄に叩きこまれることになる。そう、とにかく困った状態なのだ。
さらに、苦難は続くもので、スマホの充電も2%しかないという体たらく。僕は結構なスマホ依存症なので、これからの移動に際して充電2%ではまったく戦えない。移動中に暇をつぶせない。そうなれば気が狂ってしまう。これでは何らかのページを開いた瞬間にシャットダウンしてしまうのだ。
そう、曖昧な腹痛、そして充電2%、僕は窮地に追い込まれていた。都心へと向けた移動が非常に困難になってしまったのだ。早く家に帰ってストロングゼロ(ダブルレモン)を飲みたいというのに、ここ成田空港から一歩も動けない状況に陥ってしまった。
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri)
記事一覧へ
『pato「おっさんは二度死ぬ」』 “全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"―― |
記事一覧へ
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ