ツェッペリン「天国への階段」パクリ裁判勝訴で考える“その曲は誰のものか”

 NHKニュースでも取り上げられた、レッド・ツェッペリン「天国への階段」の盗作騒ぎ。米バンド・スピリットが「Taurus」という曲に酷似しているとして、著作権訴訟を起こした。結果はご存知の通り、ツェッペリン側の勝利。6月23日に、「盗作ではない」との判断が下った。

PHOTO/Paul A. Hudson(CC BY 2.0)

盗作ではなく「300年前から使われてきたコード」


 審理の際、ツェッペリン側の証人として出廷した音楽学者ローレンス・フェレーラによれば、「天国への階段」と「Taurus」に共通するのは、イントロ部で半音ずつ下がっていくマイナーコードの進行のみ。しかもそれは300年以上も前から使われてきたものだと証言した。

 つまり、スピリット側の主張を支える根拠そのものが薄弱というわけだ。

●レッド・ツェッペリン「天国への階段」



●スピリット「Taurus」(問題の部分は1:37あたりから)



 しかし、今回の判決を意外だったと思う人もいるかもしれない。過去の裁判では、“パクられた”側に有利な判決が多かったからだ。

 記憶に新しいところでは、「Stay With Me」(サム・スミス 2014年)に対する「I Won’t Back Down」(トム・ペティ 1989年)や、「Blurred Line」(ロビン・シック 2013年)に対する「Got To Give It Up」(マーヴィン・ゲイ 1977年)など。これらはいずれも類似性が認められ、トム・ペティとジェフ・リンは作曲者クレジットに名を連ね、マーヴィン・ゲイの遺族は9億円もの和解金を手に入れた。

●Sam Smith – Stay With Me (Live) ft. Mary J. Blige



●Tom Petty And The Heartbreakers – I Won’t Back Down



 最近ではそんな風潮を逆手に取るように、あえて先行楽曲に似せるパターンが見受けられる。たとえば、「Sugar」(マルーン5)は「Birthday」(ケイティ・ペリー)を、「Air Balloon」(リリー・アレン)も、「Roar」(ケイティ・ペリー)をおちょくるような作りだ。一見楽しんでいるように見えるが、訴訟にナーバスになっている音楽業界の現状が浮かび上がる。

 しかし、ここで考えてみたいのは、楽曲のオリジナリティとは何なのか。そして、そもそも楽曲の持ち主とは、誰を指すのかということだ。

誰のものでもない名曲がある


 たとえば、私たちは「ダニー・ボーイ」の原曲「Londonderry Air」の作者を知らない。それどころか、最初に誰が口ずさんだのかも知らない。その後、どのように形を変え、今に至ったのかも知らない。「ダニー・ボーイ」は、もはや誰の持ちものでもないのだ。

●Celtic Woman – Danny Boy



 それでも曲は確かに存在し、イディオムは至る所で無意識に引用されている。サザンオールスターズの「TSUNAMI」を思い出してほしい。「ダニー・ボーイ」の遠い子孫でありながら、立派に独立した別の楽曲である。

 そしてルイ・アームストロングを聴けば、テクスチャーが変わると、異なった「きらきら星」になると気づかされる。それをわざわざメロディだけを抜き出して、“パクリだ”と言う方がどうかしているだろう。

●What a wonderful World —- www.petehuttlinger.com
※「きらきら星」とそっくりなことがわかる



ジュディ・オングと『ロッキー』のあの曲もそっくり


 「魅せられて」(ジュディ・オング)と「The Final Bell」(映画『ロッキー』)に至っては、キーから演奏に至るまで瓜二つなのに、対極の世界が描けるのはどうしてだろう。これも些末な類似にこだわっていては見逃しがちな点かもしれない。

●ジュディオング 魅せられて♪



●Bill Conti – The Final Bell (Rocky)
※この曲の0:14からと、『魅せられて』の0:46からを聴いてみて



 ゆえに、「Taurus」と「天国への階段」のコード進行が同じだからといって、曲全体の持つパワーや与えるイメージまでもが等しいと判断するのはナンセンスなのである。もちろん、スピリット側も本気で訴えたのではなく、あわよくばという気持ちが大きかっただろう。

 しかし、そうした時代の流れがミュージシャンを委縮させているとしたら、食い止めなければばならない。今回のツェッペリン側勝利の意義は、そこにある。

<TEXT/石黒隆之>

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