ソマリアの海賊がいなければ、マグロは絶滅していた!?

 2月25日、東京地裁でソマリア海賊の18歳少年(犯行時16歳。以下、少年A)に対して、海賊対処法違反の罪で懲役5~9年の不定期刑判決が言い渡された。

 一連の裁判では、4人の海賊が日本で裁判員裁判を受けており、判決が下るのは3人目(事件と裁判の詳細は記事末尾を参照)。少年Aは「自分は小型ボートの運転助手でしかなく、伝令役としてタンカーに乗船しただけ」と供述していたが、裁判所は「ソマリアの海賊行為は計画的に行われており、海賊のリーダーが事情のわからない人物を標的の船に乗せるのは不自然」と認定。

 また、タンカー乗船後も「大人2名はバールを使ってドアを壊して回っていて、自分も『一緒にやれ』と言われたが、恐怖心から参加せず、もう1人の少年と一緒に操舵室にいた」と少年Aは主張していたが、「操舵室で録音された音声にそのような会話はない」「少年Aは一番最初にビスケットを食べたり、ポスターに『I Love SOMALI』と落書きをするなど率先して動いていた」と、単に見張りをしていただけとは認められなかった。

 少年Aは4人のうちで唯一英語をしゃべれたことから、人質交渉や船の移動の指示を出す重要な役目を担っていたとして、大人の指示に従ったのではなく共同正犯と認定。サブリーダー的役割を担っていたことから、先に判決が下った成人男性2人の懲役10年よりも重い刑罰であるべきではないか、という議論もあったが、「海賊行為は未遂に終わった」「犯行当時は16歳だった」「内戦状態のソマリアで育った」などが考慮され、懲役5~9年になったという。

高野秀行氏

高野秀行氏はすでに4回、ソマリアを訪れている

 さて、ソマリアはおおまかに「北部のソマリランド」「北東部のプントランド」「南部ソマリア」に別れており、海賊はほとんどがプントランドから出撃するという。先頃、『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)を上梓し、すでに4回ソマリアを訪れているノンフィクション作家の高野秀行氏に「海賊国家プントランド」の事情を聞いた(高野氏もこの海賊裁判は数度傍聴している)。

「英語ができる16歳、というのはプントランドでも珍しいはず。もしかしたら、少年Aはいい家柄に育ったのかもしれませんね。プントランドは初代大統領のアブドゥラヒ・ユスフも海賊だったと言われており、海賊と人質の母国政府との仲介ビジネスで潤っています」

 実際、高野氏はソマリアで海賊にさらわれたドイツ人夫婦と接触しているが、彼らをさらった海賊とドイツ政府との仲介をしたのもプントランド政府だったという。

「とにかく、プントランドでは大半の人がなんらかの形で海賊ビジネスに関わっていると言っていいでしょう。前大統領が『プントランドの兵士が大量に、直接海賊行為に関与している』と証言していますし、プントランドは民主主義国家ですが、海賊マネーがないと選挙に勝てないですからね」

 ちなみに、最近、プントランド関連で話題になったのが、あの「すしざんまい」の木村清社長だという。昨年11月にプントランドを訪れ、漁業支援を申し出たのだそうだ。

「まあ、すしざんまいの話はテレビで知ったのですが(笑)、ソマリア沖は世界有数のマグロの漁場で、『ソマリアの海賊がいなければマグロは絶滅していたかもしれない』と、本当に言われているほどなんです。プントランドに目をつけるとは、あの社長さんはさすがにやり手ですね」

『謎の独立国家ソマリランド』

高野秀行著『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)

 プントランドで海賊がビジネス化していった背景には、ソマリアが無政府状態になり各国の漁船がソマリア沖の漁場を荒らし、地元漁民が武装化していったという事情がある。逆説的ではあるが、ソマリア海賊たちが外国船を襲いまくったことで、ソマリア沖にやってくる外国漁船による乱獲が収まり、潤沢な海洋資源が守られてきたということだ。

 さて、先の成人海賊2人が控訴したことを考えると、少年Aも恐らくこれから控訴し、裁判は長引きそうだ。現在の判決から考えても、彼らはおおよそあと10年ぐらいは日本にいることになるかもしれない。少年Aたち海賊4人が母国に帰る頃には、海賊ビジネスが根絶されているだろうか……。 <取材・文/織田曜一郎(本誌兼「HCTV」東京支局ボランティアスタッフ)>

【付録】
※日刊SPA!ではこの一連のソマリア海賊裁判について報じてきているが、改めてこの事件と日本で行われている裁判員裁判について整理しておきたい。

【海賊襲撃事件について】

 2011年3月5日、商船三井のタンカー「グアナバラ号」がソマリアの海賊の襲撃を受けた。海賊たちは全部で21人からなり、母船となる漁船から小型ボートで6人が出撃。6人のうち4人がグアナバラ号に乗り込み、自動小銃を発射したり、バールで船室のドアをこじ開けたりといった海賊行為を行った。

 これに対し、グアナバラ号の24人の船員は海賊対策マニュアルに従い、監視役の2人を除いて機関室に立てこもり、海賊に船のコントロールを奪わせなかった。

 海賊たち4人は船のコントロールを奪えないまま、小型ボートに戻ることができなくなり、翌3月6日に米海軍に白旗を揚げて降伏。身柄を拘束され、東日本大震災直後の3月13日に日本へ連行されてきた。

【裁判員裁判の推移】

 4人の取調べと裁判は、年齢確認を巡って混乱した。結論から言うと、4人のうち2人が未成年ということが判明したが、当初は今回判決を受けた少年Aだけが未成年とされ、家裁に送られたが逆送され裁判員裁判を受けることになった。

 もう1人の少年Bは2011年11月4日に初公判が行われたが、未成年ということが判明し公訴棄却。家裁に送られたが、やはり逆送された。

 当初から成人と目されていたマハムッド・ウルグス・アデッセイ被告と、アブデヌール・フセイン・アリ被告の2人の初公判は2013年1月15日から行われ、2月1日に懲役10年の判決が下った。両名は判決を不服とし、控訴している。

 2013年、2月4日に少年Aの公判が始まり、2月25日に懲役5~9年の不定期刑の判決が下った。

 今後、少年Bの公判が行われるものと思われる。

謎の独立国家ソマリランド

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