場違いな格好で高級ブティックに潜入 【新しい肝試しスタイルを検証】
―[新しい肝試しスタイルを検証]―
新しい肝試しのスタイルを記者が体当たりで検証する夏季限定のシリーズ企画。
前回「初心者ドライブで夜の首都高を爆走」、前々回「初心者ドライブで夜の歌舞伎町を迷走」では、共に「事故るかもしれない」という緊張感――つまり、生命の危機を感じて肝を冷やすというのがテーマだった。しかし、冷や汗をかくのは「怖さ」のみではない。「合コンで渾身のギャグがスベった」、「フォーマルなパーティーなのにひとりだけカジュアルな格好で来てしまった」など、「恥じらい」を感じたときこそ心は寒くなるもの。
というわけで今回のテーマは「場違いな格好で高級ブティックに潜入」である。
実践場所はハイブランド系の路面店が立ち並ぶ青山、表参道エリア。「場違いな格好」のモデルは「裸の大将」こと孤高の日本画家・山下清。タンクトップではない白のランニングシャツ、短パン、サンダル。大きめのリュックサックのサイドポケットには、家でくんできた麦茶を入れたペットボトル(ラベルはポカリ)を常備という、現場帰りの労働者スタイル。オシャレな街からは完全に浮いた存在で、道行く人たちの視線が痛い。
まずは特徴的なガラス張り建築が目につく『P』店に向かう。入口の10メートル手前当たりから、不審者を発見したような店員たちのソワソワした様子が見てとれる。そもそも普段からこの手の高級ブランドに縁のない記者にとって、入店自体が困難な作業。それでも「エイヤッ」と勇気を出して店内に足を踏み入れ、まずは広い店内を物色するフリをしながら一周。
チラチラと後ろを振り返ると、定位置に屹立している男性店員と必ず目が合う。まるで万引き客を見るような怪訝な目つき。この店員、間違いなくこちらの一挙手一投足を凝視している。気付けば、映画『マトリックス』で無限増殖してくるエージェントスミスのごとく、黒スーツの店員たちがバックヤードから一人二人と湧いてきて、記者を中心にした包囲網を形成。「早く出て行け」と言わんばかりに無言の圧力をかけてくる。人の視線を一身に集めることが、これほど息苦しくいたたまれなくものとは……。10分ほどの滞在で酸欠状態に陥りつつ、店をあとに。
続いて訪れたのは瀟洒な木目調の飾り棚、落ち着いた色彩のダウンライトでシックな雰囲気を醸し出す『B』店に突入。絨毯ばりのフロアに似つかわしくない、サンダルのペタペタ音を聞いた女性客が、振り向きざま「ヒィッ」と小さな悲鳴を上げる。心にスーッとすきま風が吹く。叫びたいのはこっちなのだ。
「いらっしゃいませ。何かお探しのものはありますか?」
こちらのお店では女性店員が積極的に声をかけてくる。ニコリッと口角を上げた営業スマイルには販売員としてのプロ根性を感じるが、その目には疑惑の光が色濃く漂っている。
「ちょっ、ちょっと財布を……」とどもりながら答えれば、丁寧に商品案内をしてくれる。頭に巻かれた不潔そうなタオルや薄汚れた足元に、チラッチラッと視線をやりながらの営業なのはいうまでもない。適当に選んだ商品を手に取って、無言で眺めていると、「お客様、ご近所にお住まいなんですか?」と一言。
記者「えっ? 違いますけど、なんでですか?」
店員「いえ、あの、ずいぶんラフな……服装なので(苦笑)」
記者「ああ、僕、いつもこんな感じなんですよ(照)」
ああ、打ち明けたい。この女のコに、自分がこのふざけた企画の犠牲者であることを告白したい……。
「当店はそのぉ、ドレスコードとかは無いんですけど、隣の『H』さんとかは厳しいので、気を付けたほうがいいですよ(冷たい目で)」
痛烈な一言だ。あわよくば、和やかなムードに発展することを期待していただけに、このカウンターパンチは心にグサリと刺さった。ふと横に目をやれば、フロラン・ダバディに似たダンディな男性店員が「ニヤリ」と勝ち誇った表情でこちらを見ている。
恥ずかしさで顔を真っ赤にして、逃げ出すように店を飛び出る。街中にも店内にも“自分の居場所がどこにもない”という切なさ。心を吹きすさぶ風は、言葉では形容できないほど冷たく感じた。
【今週の体感“冷却”値 90%】
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