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今読むべき「震災マンガ」――マンガ解説者・南信長氏が推薦

 あの東日本大震災から3年が過ぎた。日刊SPA!では、震災半年後の記事で震災を描いたマンガを紹介したが(※)、その後も数多くの震災マンガが登場している。被災地以外では震災への関心が徐々に薄れつつあるなか、漫画家たちは何をどう描いてきたのか。今読むべき作品は何か。マンガ解説者の南信長氏に話を聞いた。 ※この震災マンガがすごい! https://nikkan-spa.jp/54727
ストーリー311

『ストーリー311 あれから3年』(角川書店)

「震災直後には漫画家自身の体験を綴ったものが多かったのですが、ここにきて震災の記憶を語り継ごうとする作品が増えてきました。3月11日に発売されたばかりの『ストーリー311 あれから3年』(角川書店)は、昨年の同じ日に出た『ストーリー311』(講談社)の第2弾で、漫画家が現地の人たちを取材して、被災体験や復興への取り組みをマンガ化したもの。発起人のひうらさとるをはじめ、『大東京トイボックス』のうめ、『のだめカンタービレ』の二ノ宮知子、『重版出来!』の松田奈緒子ら11名が執筆しています。何をどう伝えるか、それぞれの作家が悩みに悩んだ末に描いただけに、どの作品も気持ちがこもっていて、短いページ数ながら読みごたえがある。“被災者”とひとくくりにできない一人一人の人生を垣間見ることで、震災や復興を身近な問題として感じられます」  ちなみに同書は、クラウドファンディングで資金を調達し、著作権料(印税)は全額寄付というチャリティ本。買って読むことが復興支援につながるわけだ。
ふくしまノート

井上きみどり『ふくしまノート』(1巻・竹書房)

「取材ものでは、井上きみどり『ふくしまノート』(竹書房)も力作です。放射線のこと、子供の将来への不安、行政の対応、周囲の反応、警戒区域内の状況など、当事者が語る細かな事実の積み重ねがすごい説得力。原発のせいで一般市民がどれだけ理不尽な目に遭ったかがよくわかる。その話を聞いてマンガにすることは決して楽しい作業ではなかったと思いますが、よけいな感情や主張を入れない淡々とした筆致が逆に心に響きます」  作者は仙台市在住で自身も被災しており、その体験も含めた記録マンガ『わたしたちの震災物語』(集英社)という作品も発表している。 「自身の体験を時間が経ってから振り返ったものとしては、ニコ・ニコルソン『ナガサレール イエタテール』(太田出版)も面白い。いや、面白いと言うと語弊があるかもしれませんが、津波で流された実家の再建をとぼけたタッチで描いたエッセイで、事態は深刻なんだけど笑っちゃう。逆に、福島県の山村に移り住んだ作者が原発事故に遭遇して右往左往するさまを綴った山本おさむ『今日もいい天気 原発事故編』(双葉社)は静かな怒りに満ちている。ノリは正反対ですが、どちらも貴重な震災の記録です」  そのほかにも、震災はさまざまな形で描かれている。 「原発関連では、福島第一原発で実際に働いていたという作者が、原発作業の実態と作業員の日常を描く竜田一人『いちえふ』(講談社より4月下旬に単行本発売予定)は要注目。フィクションですが、端野洋子『はじまりのはる』(講談社)も必読です。原発事故による放射性物質と風評被害に苦しむ福島の高校生たちのドラマ。誰もが今の自分にできることをやりながら懸命に生きている。その姿が逆に、失われたもの、奪われたものの大きさを痛感させます。前回の記事でも言いましたが、今後もいろんな視点で震災を描く作品が出てくるだろうし、出てきてほしいと思います」
はじまりのはる

端野洋子『はじまりのはる』(1~2巻・講談社)

 そう語る南氏は、4月26日(土)開催の講座「対談 3.11とマンガの底力」(@朝日カルチャーセンター横浜校)に登壇する。 「マンガ研究者の斎藤宣彦さんと、震災とマンガについて語り合います。単なる作品紹介ではなく、震災後の漫画家たちの活動、震災がマンガ表現に与えた影響、マンガというメディアが果たした役割など、あの日から現在に至るまでのマンガ界全体の動きを振り返ってみたいと思います」とのことなので、興味のある方は足を運んでみては? <取材・文/日刊SPA!編集部>
ストーリー311 あれから3年 漫画で描き残す東日本大震災

あの日と、あの日からの激動の日々を、人気漫画家たちが現地で取材し、そこにある想いを漫画で描き残す、感動必至の“311の物語"

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