「この女、かっこいい!」――46歳のバツイチおじさんは影のあるクール美人に心を奪われた〈第21話〉
しかしながら、アジアの旅を続けているうちに、日本にいる時と少しだけ考えが変わってきた。
「女を金に変えて何が悪いの? 裕福な日本人さん」
そう言われてるような気がしてならなかった。
カンボジアの夜の蝶に「不健康」は感じない。
おいしいものが食べたい。
キレイな洋服が欲しい。
いい暮らしがしたい。
「欲望」というシンプルなモチベーションは、異様に高価な持ち物に安い靴など、ちぐはぐな不自然さはあった。しかし、彼女たちのメインの動機はどうやらそこではないようだ。
「親や兄弟を養うために女を金に変えている。それしか方法がないから」
そのことに、後ろめたさなど感じていないのだ。
フィリピンの英語学校の先生たちのように、普通に働き、給料を家族に送金している高潔な女性もたくさんいる。しかし、その学校の先生に聞いた、「2歳からシンナーを吸わせるストリートチルドレンの親の話」など、発展途上国の現実を知れば知るほど、それは社会システムの問題で、彼女たちの心のあり方ではない気がした。
もしかしたら、日本でも同じような問題が起きていて、ただ俺が知らなかっただけなのかもしれない。いや、知ろうとしなかったのかもしれない。
ゲームが終わり周りを見回すと、フィリピン人のビーナスたちの姿がなくなっていた。
俺 「あれ? ビーナスとかは?」
馬見新 「どっかいなくなっちゃいました」
俺 「あ、そう」
馬見新 「ごっつさん、この後どうします?」
俺 「さっき、ボードゲームで負けたエラって娘がいるんだけど、すぐそこにある日本料理屋さんに誘ってみようかなと思ってる」
馬見新 「じゃあ、誘って下さい。俺も付き合いますよ」
馬見新ちゃんは「本当にできるの?」という目で俺を見て、ニヤリと笑った。口を滑らせ、かっこつけた手前、俺はエラを誘いださねばならない。しかも英語で。初めて英語で女性を誘う。酔いにまかせて勇気を出し、エラに話しかけた。
俺「あの、エラ、さっきの勝負楽しかったよ」
エラ「私もよ」
俺「もし良かったら、すぐ近くの日本料理屋に行かない?」
エラ「……いいよ。友達も一緒でいい?」
俺「いいよいいよ。こっちも、もう一人日本人の友達がいるから」
エラ「10分後でいいかな?」
俺「もちろん!」
成功した。
良かった。
何とか男としての小さなプライドは保たれた。
10分後、お店から歩いて1分くらいの場所にある、お蕎麦をメインにした日本料理屋に4人で入った。お蕎麦と天ぷら、カルフォルニア巻を注文した。エラは天ぷらとお寿司に興味あるが、一度も食べたことがないとのことだった。
俺 「天ぷらとお寿司、食べてみる?」
エラ 「……うん。挑戦してみる」
俺「その様子、スマホで撮っていい?」
もし嫌がったら謝ろうと思っていた。
エラ「うん。イイよ」
クールな美女エラの前に、海老の天ぷらとカルフォルニア巻が来た。
興味深々に覗き込む。そしてお箸を器用に使い、海老天をがぶりかぶりつた。表情が歪んだ。どうやらお口に合わなかったようだ。
うまいともまずいとも言わない。
続いて、カルフォルニア巻をパクリ。こちらに至っては、途中でティッシュに吐き出してしまった。二品ともあんなにうまいのに。そして彼女はクールな表情をくしゃっと歪ませ笑った。キュートな笑顔だ。その笑顔を見て俺も笑った。
俺はホーチミンで良くわからない腸の煮込みをナイトマーケットで食べ、食中毒になり、ごはんが怖くなったのを思い出した。
「結構、勇気を出して食べてくれたんだな。気も使える良い娘だなぁ、ありがとう」
日本人同士でも食事の趣味が合わない異性と付き合うのは大変だ。まして結婚生活となると、死活問題。やっぱり国際結婚って難しんだなぁと改めて思った。そして、彼女に惹かれ始めている自分に気づいた。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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<バックナンバー>
【第20話】「運の流れを変えなければ」――46歳のバツイチおじさんはカジノに活路を見出そうとした
【第19話】「俺、ここで死ぬかも」――46歳のバツイチおじさんは窓のない部屋で生死の境をさまよった
【第18話】「俺は女性の涙に人一倍弱い」――46歳のバツイチおじさんは彼女の悲しい表情に胸が締め付けられた
【第17話】「なんだか新婚旅行みたいだね」――46歳のバツイチおじさんは象の背中の上で彼女に微笑みかけた
【第16話】「こんなところで漏らしたら大惨事だ」――46歳のバツイチおじさんは全神経を集中させてトイレを探した
【第15話】「俺は今、自分を見失っている」――46歳のバツイチおじさんは旅を立て直すために大きな決断を下した
⇒【第1話】からの全バックナンバーはコチラから
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