怪傑ホークRoppongi Nightをゆく――フミ斎藤のプロレス読本#028【ロード・ウォリアーズ編エピソード13】
ホークは、しばらくそのへんにつっ立っていることにした。お散歩ごっこの基本はあくまでも第三者的な視点である。
坂道を下りきったところにある公衆便所のほうから女性の悲鳴らしきエコーが聞こえてきた。細い路地とその向こう側にある墓地とを区切っている金網のフェンスのまえで、紫のスーツをきたブラザーと金髪の女の子がもみ合っていた。女性は明らかに抵抗している。
サトーとヒロシマがその異様な光景に気がついたときには、すでにホークが暴漢に飛びかかっていた。でも、暴力をふるったりしたらそれが正義の味方としての行動だとしてもトラブルに巻き込まれていしまう。
ホークはそのブラザーをハーフネルソンでていねいに押さえつけ、そのあいだにブロンドの外国人女性は安全な場所に避難した。
「おい、ポリス・オフィサーを呼んでくれ」
ホークがヒロシマに向かって叫んだ。男は暴れるのをやめようとしない。近くにいた通行人が携帯電話から110番に通報してくれたようだ。そうこうしているうちに、現場にはヤジ馬が集まってきた。あっというまに黒山の人だかりができてしまった。
どうやら、ホワイト・ボーイとブラザーがケンカをおっぱじめたことにされてしまったらしい。いつのまにかアフリカンの集団がホークのまわりを取り囲んでいた。
けっきょく、おまわりさんたちがやって来たのはそれから20分もたってからだった。暴漢は逃げてしまったし、ブロンドの娘ももう消えていた。
アメリカのダウンタウンで同じようなことが起きたら、1分もたたないうちにヘビー級のポリスメンがかけつけてくる。トーキョーはそういうところは不思議なくらいのんびり――あるいは六本木のなかでもディープなエリアは無法地帯化――している。
ホークは悲しそうな顔をして「もう、行こう」とつぶやいた。六本木もずいぶん変わってしまった。さっき、ホークが助けてあげたブロンドの女性は、六本木交差点の反対側の防衛庁――いまは東京ミッドタウウンがある一角――のすぐそばにできたばかりのストリップ・ジョイントで踊っているダンサーらしかった。
“ミストラル”では、やっぱりハードロックがガンガン鳴り響いていた。
「なあ、“ヘルレイザー”、かけてくれよ」
お店に戻ってきたホークがそういうと、店長のジュンちゃんは気をきかせていつものオジー・オズボーンのカセットテープをデッキに放り込んだ。(つづく)
※文中敬称略
※この連載は月~金で毎日更新されます
文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

斎藤文彦
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
1
2
この連載の前回記事
【関連キーワードから記事を探す】
鈴木みのる、“新日”若手時代から変わらないストロングスタイル「僕が話を聞いたのは、藤原さんと猪木さんだけ」
プロレスラー鈴木みのるが“一人メシ”を語る「人生で一番うまかったメシはサラダかな」
「アントニオ猪木の後継者」を巡る因縁…当事者が対峙した1986年の凄惨マッチ
アントニオ猪木黒幕説も…「1999年の不穏マッチ」凶行を巡る“当事者の証言”
フワちゃんも参戦!“女子プロレス”をコロナ禍でも売上5倍にした経営の秘密
ホークとアニマルはベスト・フレンズ――フミ斎藤のプロレス読本#030【ロード・ウォリアーズ編エピソード15】
シャイなホークがみつけた、いっしょにいてラクなサムバディ――フミ斎藤のプロレス読本#029【ロード・ウォリアーズ編エピソード14】
怪傑ホークRoppongi Nightをゆく――フミ斎藤のプロレス読本#028【ロード・ウォリアーズ編エピソード13】
よそいきホークとジョーンおばさまのトーキョー・ウォーク――フミ斎藤のプロレス読本#026【ロード・ウォリアーズ編エピソード11】
「さっきのバンダナの彼、ビリー・グラハムでしたっけ」だって――フミ斎藤のプロレス読本#025【ロード・ウォリアーズ編10】
ダグ・ファーナスのハンブルhumbleな気持ち――フミ斎藤のプロレス読本#033【全日本プロレスgaijin編エピソード3】
ホークとアニマルはベスト・フレンズ――フミ斎藤のプロレス読本#030【ロード・ウォリアーズ編エピソード15】
シャイなホークがみつけた、いっしょにいてラクなサムバディ――フミ斎藤のプロレス読本#029【ロード・ウォリアーズ編エピソード14】
怪傑ホークRoppongi Nightをゆく――フミ斎藤のプロレス読本#028【ロード・ウォリアーズ編エピソード13】
ド田舎に家を建てて犬といっしょに暮らしているノートン――フミ斎藤のプロレス読本#027【ロード・ウォリアーズ編エピソード12】
この記者は、他にもこんな記事を書いています