クロファットはガイジン組のムードメーカー――フミ斎藤のプロレス読本#048【全日本プロレスgaijin編エピソード16】
クロファット巡業部長を訪ねてくるのはオールジャパンのガイジンだけではない。このあいだはパンクラスのケン・ウェイン・シャムロックがふらっと遊びにきてくれた。
クロファットとシャムロックはいちどだけオールジャパンのシリーズ興行をいっしょにツアーしたことがある。フツーのプロレスラーとして全日本プロレスのリングに上がったときのシャムロックは、トラディショナル・スタイルのプロレスに戸惑っていたし、なんとなく居心地の悪いドレッシングルームでちいさくなっていた。
シャムロックは、クロファットをこの世界の先輩というふうにとらえているし、クロファットもまたシャムロックを“成功した格闘家”としてリスペクトしている。
やっぱり、なんでもありの総合格闘技UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)のことが話題になった。じつはクロファットもシャムロックのやっていることにすごく興味を持っている。
ホームタウンのモントリオールでは“喧嘩屋”として知られているクロファットの心の隅っこには、ああいうこともやってみたいという願望のようなものがある。
「いいマネーになるならやっちゃいますよ。あれってのはずっとつづけられるものなのかな。つづけられるなら、あれもいいかな。ちゃんとマウスピースさえしておけば、ちょっとくらい顔をぶん殴られたって平気でしょ」
歯っかけのクロファットは、本気とも冗談ともつかない顔でそこまで話すと、よくわからないけれど、という感じで軽く肩をゆすった。きっと“賞金マッチ”は生活の糧にはならない。UFCは、おとなりの家の庭に咲いたタンポポみたいなものなのだろう。
――エースの回転エビ固めをふんばってこらえたクロファットは、下からタイツをつかまれてお尻をペロンとまる出しにされた。自軍コーナーにはパートナーのダグ・ファーナス、新入りのアンソニーがいて、反対側のコーナーにはパトリオットとジョニー・スミスが立っている。
クロファットがなにかおもしろいことをやってくれるたびに日本武道館がどっとわき返った。1万6000人の大歓声はやさしさとあたたかさで包まれていた。
でも、お尻まる出しのクロファットは、ほんとうはちょっぴり退屈していた。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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