シーク様の「やっぱりわしが出ていかねばならんのか?」――フミ斎藤のプロレス読本#087【サブゥー編エピソード7】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
デトロイトから1通のFAXが届いた。差出人は“The Sheikザ・ツーク”。シーク様には“シ”と“ツ”の区別がつかない。カタカナのスペルはもう何十年も“ザ・ツーク”のままになっている。
でも、それはほんのささいなディテールでしかない。手書きのレターのおしまいの1行には「電話をくれCall me」とあった。シーク様は、日本のレスリング・ビジネスのマーケット事情を知りたがっているようだった。
シーク様がじきじきにペンを取って手紙をしたためてきたということは、なにかサブゥーのことで大切なおはなしがあるにちがいない。
そういうときは泡食ってシーク様にすぐに電話をかけたりしてはいけない。まず、こっそりサブゥーのところに連絡を入れて、だいたいのシチュエーションを予習しておいておくのが賢い対応である。
サブゥーはほとほと困りはてている様子だった。ここ2、3日、シーク様の家に通いづめになっていたらしい。
“アラビアの怪人”のわからず屋はいまにはじまったことではないけれど、甥っ子が偉大なる伯父に伝えようとしていたのは「お願いですからぼくのことで(勝手に)プロモーターと連絡をとるのはやめてください」という基本的なルールのようなもので、シーク様はシーク様で「またわしが出ていかなければならんのか」の一点ばりだから、会話にならない。
「自分のことは自分で決めます」
「だが、現にこうやってお前はここへ来て、わしに相談をもちかけておる」
「それはちがいます」
「お前がきちっとビジネスをテイクケアせんから、プロモーターたちがわしに電話をしてくるのだ。ちがうか?」
「…………」
「お前はわしに審判を仰いでおる」
さあ、どうだ、どうだ、どうだ。ガミ、ガミ。ガミ。ヤックyack、ヤックyack、ヤックyack。じいさんの罵詈雑言は止まらない。シーク様の目にはサブゥーがほんの子どものようの映っている。甥っ子はいつまでもたっても甥っ子のままである。
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