友だちは選びぬいていつまでも、がサブゥーの流儀――フミ斎藤のプロレス読本#086【サブゥー編エピソード6】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
サブゥーは、めったなことではニッコリ笑ったりしない。大人数で行動するのは苦手だし、人ごみもあまり好きではない。
お酒はあまり飲まないからナイトクラビングなんてしないし、いつだって体のどこかが痛いから、試合がないときはホテルの部屋でおとなしくしているのがいちばんいい。だから、友だちはけっして多いほうではない。
日本にいるときは、必ず1日に1回ずつ母親のイヴァさんに電話を入れる。体の弱いお母さんは、孝行息子がいてくれないとどこへも出かけられない。サブゥーは、イヴァさんがベッドから起きあがる午前7時くらいをみはからってランシングに電話をかける。
「なにやってるのWhat do you doing?」で会話がはじまる。ただ様子をみるための電話だから、あまり長くならないようにひと言、ふた言しゃべってから受話器を置く。サブゥーにとって物理的な距離はわりとどうでもいいことらしい。
ランシングに帰ると、サブゥーのオフィス兼ベッドルームの電話は1日じゅう鳴りっぱなしになる。やっぱりアメリカは広いから、知り合いが家に訪ねてくるなんてことはそんなにない。そのかわり、何百マイルも離れたところに住んでいるボーイズからのアフタヌーン・コールが入る。
このあいだ、ハルク・ホーガンからいきなり電話をもらった。どちらかといえばレスリング・ビジネスの裏街道っぽいところをとぼとぼ歩いてきたサブゥーにとって、ホーガンは遠い遠い存在である。
ホーガンと初めて会ったのは、マイアミで“マンデー・ナイトロ”のTV撮りがあったときだった。超人とサブゥーはドレッシングルームの端っこのほうに折りたたみ式のイスを並べてふたりだけで20分くらい話し込んだ。
ホーガンはサブゥーのうわさを耳にしていたし、もちろん、サブゥーだってホーガンがいままでどこでなにをしてきた人なのかはちゃんとわかっている。ハルカマニアは、想像していたよりもはるかにフレンドリーでナイスガイだった。「会えてうれしいよ」とホーガンはいった。
スーパースターがわざわざ電話をかけてきてくれたのは、ゴシップの交通整理をするためだった。
WCWのバックステージに足を踏み入れたとたん、サブゥーはまわりにいるレスラーたちからの敵意のこもった視線を感じた。
エリック・ビショフ副社長はサブゥーのことをキャリア1年くらいのルーキーだと勝手に思い込んでいたし、ほかの“一軍登録メンバー”たちもそれとなくディスタンスをとって“アラビアの怪人”ザ・シークの甥をながめていた。
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