サブゥーの心のリングはFMファッキンW――フミ斎藤のプロレス読本#121【ECW編エピソード13】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199×年
ぼくが新高円寺の仕事場に戻ると1枚のFAXが届いていた。“こんにちは”も“Hello”もなくいきなり“サブゥーの宿泊先”とだけ記されていた。
12月4日と5日はボストンのラマダ・イン、12月6日はフィラデルフィアのホリデー・イン。どうしろこうしろとは書いてないけれど、これだけでちゃんと「連絡を待つ」というメッセージになっている。王子様はあまりたくさんのコトバを使わない。
木曜と金曜がボストン郊外でのハウスショーで、土曜がECWアリーナ定期戦。試合が終わってホテルにチェックインするのは午前12時過ぎだから、確実に本人をつかまえることができるのはそこから2時間以内ということなる。
サブゥーは、ホテルの自室に入るとまず母親のイヴァさんとミブゥーに電話を入れ、ちょっとだけおはなしをして、ルームサービスで食事を注文し、それを食べたら歯を磨いてすぐにベッドに入ってしまう。ほかのボーイズとゴー・アウトしてわいわいやるのはあまり好きではない。
「なあ、なぜそこにオレの名が入っていないんだ。なぜだと思う?」
サブゥーの声のトーンは、怒りと素朴な疑問と悲しみみたいなものがごちゃ混ぜになっていた。なにがそんなに納得がいかないかのかというと――それは単純な手ちがいなのかもしれないけれど――ECWのジャパン・ツアーのメンバーに自分の名前がリストアップされていないことについてだった。
電話の向こう側からはサブゥー以外の何人かの人間の話し声がかかすかにこぼれ落ちてきた。きっと、子分のピーウィーとその友だちかだれかがサブゥーの部屋をラウンジ代わりにしているのだろう。
ときおり、後ろのほうから笑い声が聞こえてくる。サブゥーは受話器を握ったまま約10秒間のポウズをつくった。“無音状態”は「なんとかいってくれよ」の合図らしかった。サブゥーはこちらのリアクションをじっと待っていた。
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