シーク様の「やっぱりわしが出ていかねばならんのか?」――フミ斎藤のプロレス読本#087【サブゥー編エピソード7】
「人生は修行の連続なのだ」「学ぶことのくり返しだぞ」「もっとよく考えてからものをいえ」
電話口から――ぼくの耳に――聞こえてくるシーク様の声には坊さんか神父の説教のような響きがあった。“アラビアの怪人”は、いまジャパンにいくつのレスリング・カンパニーがあって、それぞれがどんな活動をしているかなんててんでわかっていないみたいだし、そんなことをいちいち頭に入れておくつもりもないようだった。
もちろん、基本的にはサブゥーによかれ、ではある。「わしの甥はアメリカン・レスラーではない。やつはアラブのレスラーだ」「ムダ口をたたかないこと」「いちど約束したら、どんなことがあってもそれを守ること」「群れてはならない。ステイ・バイ・ユアセルフStay by yourself(独りでいろ)」「スターになる人間は、ほかの連中よりも明らかに優秀betterなクオリティーを持っていなければならん」
シーク様は、どうやらシーク様自身の経験を語ってくれたようだった。
数日後、こんどはサブゥーからFAXが送られてきた。シーク様はシーク様なりに1990年代後半のジャパニーズ・マーケットをリサーチしてくれたのだし、ベストな選択はなんであるかをいっしょになってじっくり考えてくれた。どうやら、サブゥーはシーク様のオピニオンを尊重することにしたらしい。
偉大なる伯父が元気なうちは、やっぱり、いうことを聞いておいたほうがいいのかもしれない。ザ・シークとサブゥーの関係はそういう形でしか成立しえない。シーク様は“恐竜”の生き残りのようなものだ。シーク様にもしものことがあったら、ガミガミ怒られることはなくなるかわりに知恵wisdomを授けてくれる人もいなくなってしまう。
シーク様は、まだ学ぶべきことのすべてをサブゥーに教えたわけではない。シーク様が「人生は修行の連続なのだ」といっているのだから「学ぶこと」に終わりはない。
サブゥーは、シーク様から呼び出しを食うたびに、まあ、しようがないか、と思いながら偉大なる伯父の家にお百度を踏むのである。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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