ヘイト本のヒットは日本の恥ずべき事態。知識人やメディアは煽ってはいけない【ジャーナリスト青木理】
今、書店をのぞけば、「世界情勢」や「東アジア」といったコーナーや、ベストセラーのコーナーを埋め尽くす本がある。異様に長いタイトル、帯文が特徴の「ヘイト本」だ。一時は沈静化したが、再び隆盛の兆しを見せている。
日本でヘイト本が出版の一ジャンルとして定着してしまった昨今。情報発信を生業とするメディア関係者の矜持を問うのは、ジャーナリストの青木理氏だ。
「正直、ヘイト本が売られている現状を、メディアに携わる者として心から恥ずかしく思います。差別心や排外意識は誰の中にもあるけれど、それは一度広範囲に燃え上がってしまうと容易に消すことができない。だから、少なくとも知識人や政治家、メディアは差別や排外主義を煽ってはならないんです。なのに出版に関わる者が排外主義的な本を出すことで人々を煽ってしまっている現実に、僕は大変な絶望感を抱きます」
日本出版販売が発表した今年の上半期ベストセラー新書によると、1位は『応仁の乱』(呉座勇一、中公新書)で2位がケント・ギルバート氏の『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社)だ。「日本最大の出版社である講談社から、ヘイト本が出た影響は大きい。他の出版社だったら40万部以上も売れなかったでしょう。2匹目のドジョウを狙って、今後他の出版社もこれに続きかねません」
ただ、青木氏の目には、ケント氏のベストセラー本は羊頭狗肉としか映っていない。
「タイトルに、『儒教に支配された』とあるけど、中身は8割がヘイトで1割が日本絶賛。前提として語られるべき、儒教とはどういうもので、中国や韓国が儒教とどう交わっているかなどが書かれていません。韓国に駐在した経験から言いますけど、韓国が儒教に支配されているなどと断ずるのは粗雑な妄想です」
青木氏の怒りは、ヘイト本の作り手たちの姿勢にも向かう。
「ある民族や社会を一括りにし、マイナス面だけをかき集めて貶めるのはお手軽で、しかし許し難いヘイトです。ならば日本は世界に冠たる“痴漢大国”であり、全国各地の繁華街では風俗店が公然と看板を掲げている。これだけ捉えて『日本はとんでもない異常性欲国家である』などと誹謗することもできる。もちろん、『日本はなぜ風俗看板を掲げられるのだろうか』を分析すれば、一つの社会科学の本になるわけですが」
素材の集め方と料理の仕方次第で、本の価値は大きく変わる。
「韓国の書店にも日本研究の書籍はあります。でも、日本のヘイト本のような書籍は見たことがない。“日本独自の出版文化”でしょう」
出版文化においても、日本は今、大きな岐路に立っているようだ。
【青木 理氏】
ジャーナリスト。共同通信社時代にソウル特派員を経験。近著に『日本会議の正体』(平凡社新書)『安倍三代』(朝日新聞出版)など
取材・文・撮影/野中ツトム・鉾木雄哉・岡田光雄・福田晃広(清淡社)
― なぜ[ヘイト本]は売れ続けるのか? ―
知識人やメディアがヘイトを煽る責任は重大

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