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ハブ異常増殖で揺れる奄美大島の人間模様

引き取られたハブの一部は血清、研究用に施設に送られるがほとんどは廃棄される。写真のようにハブ酒として利用されることも

 鹿児島県・奄美大島は日本有数のハブの生息地としても有名だ。特に奄美大島のハブは毒性の強いものが多く、深刻な人的被害をもたらす。そのため県と地方自治体は1954年から島民らが捕獲したハブを買い上げている。 1匹あたりの買い上げ価格は現在4000円。例年の買い上げ数は6000匹前後だというが、70日間という観測史上最長となった昨年の梅雨の影響もあって、島内のハブが異常発生。4~8月の買い上げ数だけ見ても1万4000匹と、すでに前年の2倍近いハブが持ち込まれているという。 昨年末、ライフワークとする地方スナックの取材で奄美大島を訪れた際(https://nikkan-spa.jp/spa_blog_yoru_editor/suginami)、地元スナック嬢と男性客の間ではハブの話題でもちきりだった。 「今年は台風も多くて本業の民宿のほうはシーズン中もさっぱりだったんだけど、その代わりハブはよく獲れたよ。多いときで一日20匹くらい。ま、だいたい酒代で消えちゃうんだけどね(笑)」(Aさん・39歳・民宿経営) 20匹とは凄い。都会の人間からすれば目を合わせただけで逃げ出してしまいそうだが、そんなに簡単に捕まえられるものなのだろうか。 「ハブってのは夜行性だから、昼間はたいてい穴や岩の隙間で寝てるんだけど、その中に爆竹でも放り込めばフラフラッと顔を出す。そこをハブ取り棒(先端がフックになった棒)でエイヤッてね。奄美の人間にとってハブ獲りってのはさ、ガキの頃からの必修科目みたいなもんだから、怖いってことはないよ」 年間2000万円のハブ予算を使い切り、補正予算を組んだ自治体の苦労も知らずに得意満面だが、この“ハブ”バブルは思わぬ余波を生んでいるともいう。 「奄美の男はもともと怠け者なんだけど、今年は特に『ハブのほうが稼げる』って仕事を辞めたりサボったりするバカが増えたの。苦労するのはいっつも女だよ。ま、もともとこの島は働き者の女と怠け者の男で成り立ってんだけどね(笑)」(屋仁川通りのスナック『K』のママ・年齢不詳)
Y美さん

もともと離婚率の高い奄美大島。今回の“ハブ”バブルでそれに拍車がかかるんじゃないかと案じるY美さん。「うちのダメ亭主もハブ酒につけてやりたいわ」

「うちのダンナも仕事をサボってハブ獲りにいくんだけど、下手クソだからたいていボウズで帰ってくる。『アンタ、運動神経も悪くて向いてないんだから真面目に働きなよ』って言ったんだよ。そしたら何て返してきたと思う? 『だって、○○みたいなド阿呆がハブだけで月に20万も稼いだなんて聞いたら、クソ真面目に仕事なんてしてられないじゃない。労働意欲もわかんのに働くのはバカのすることですわ』だって。アタシ、バツ2なんだけど、バツがもう1個増えるのも時間の問題だわ」(『K』のスナック嬢Y美さん・27歳) “ハブ”バブルに湧く男たちに対して「もうウンザリ」とため息まじりに嘆く女たち――話を聞いていると、そんな図式が明らかになった。  持ち込んだハブを即現金に換えてくれるところも人気の理由の一つのようだが、返り討ちにあったときの治療代もバカにならないし、損得はビミョーな気も……。ちなみにこの買い取りシステム、対象となるのは住民票を持つ島民だけ。トレジャーハンターよろしく、ハブを捕まえに奄美に上陸……なんて気は起こさないように。 <取材・文/スギナミ>
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