俺の夜
今年1月、銀座の老舗キャバレー「白いばら」が87年の歴史に幕を下ろした。くしくも10年前、スギナミが初めて「俺の夜」で取材したお店がこの「白いばら」だった。
「『きまぐれオレンジ☆ロード』よろしく、チークタイムで意中の女子と愛を語らう」が、当時の取材テーマ。夜遊びの垢にまみれた今となっては赤面するばかりだが、昭和の遺産ともいえる同店の閉店を機に、胸に去来するのは夜遊び記者人生の記憶。「男には職場と家庭以外にもう一つの帰る家が必要だ!」を“夜討ち朝寝”の大義名分にしてきたけれど、家事だ、育児だ、保育園の送迎だと、容赦なく自由な時間が失われつつある40歳の今、睡眠時間を削ってまで盛り場に出かける体力と胆力、肝臓はあいにく持ち合わせていない。
能書きが長くなった……。今宵をもって、スギナミは「俺の夜」を引退します。
5系統の総合点が名スナックの条件!
「記者が自腹で集めた夜遊び情報」の看板に偽りはない。が、癒着を疑われても何だしで、ガチにプライベートで通うお店はこれまで紹介してこなかった。ラストとなる今回は、記者が行きつけにしているスナックのうち、特にオススメできる名店を蔵出ししたい。
場所は高田馬場。神田川近くの飲食ビルの地下1階にある「きんごま」というスナックだ。
老若男女が混在する高田馬場の小宇宙
個人的な見解だが、コンビニよりも店舗数が多いながらも定義の曖昧なスナックという業態は、大きく以下の5系統に分けられる。
水商売歴ウン十年のヤリ手ママ(マスター)が切り盛りする「カウンター系」、お食事自慢の「小料理屋系」、ノド自慢が集う「カラオケ系」、安キャバ程度にキャストが充実した「パブ系」、客同士の趣味活動が充実した「サークル系」の5つだ。
同店は「パブ系」を除いた4項目が軒並み高得点で、特に食事が……すごい。深夜でもうまい飯が食える手作りメニューの数々
生地から手作りの「自家製ピザ」。衣はサクサク、中はジュワッの「最強!アジフライ」。「もつ焼き」、「煮込みハンバーグ」から各種刺し身まで、手作り料理の逸品が並ぶ。サークル系も定番のゴルフコンペ、ボウリングから、釣り、麻雀、その他まで多様な種目が並ぶ。
「お客さんと釣った魚はそのままお店でさばきます。最高の釣果はタイを15匹。その日のうちに平らげました」(柴崎正二実マスター)同じ高田馬場エリアでの移転前も含めて、マスターが「きんごま」を立ち上げたのはおよそ30年前。業界の大ベテランだけあって、スッと懐に入り込んでくる軽妙なトークと気遣いは新規客の堅いガードすらも下げる。そして、そんなマスターの人柄にほだされてか、女性客がとにかく多い。
「ママさんのお店だと、お仕事相談とかにくる同業女性が多いイメージだけど、ここはマスターだから入りやすいんです。食事がおいしくて充実しているのも、お酒好きの一般OLさんにウケるポイントかな」(常連客の千明ちゃん)
ボリュームのある手作り料理を「ちょっと食べてよ」なんて四半世紀も通う常連おじさんから分けてもらいつつ、渾身の昭和歌謡に合いの手を入れる。その陰で、隣に座った女のコに密かな恋心を抱きつつデュエットをリクエストしちゃったりして……。LINEの交換なんてヤボはいらない。だってお店に行けば会えるんだから。控えめにいっても楽園な「きんごま」の夜。皆さん、次は誌面ではなく、お店で逢いましょう♪
【きんごま】
住:東京都豊島区高田3-10-14 B1
電:03-3209-0412
営:19時~翌3時(金・土は翌5時まで)
休:日・祝・第2、4月曜日
料:チャージ男性1500円、女性800円(お通し付き・税込み) ドリンク、食事は500円~ 各種ボトルも用意
撮影/石川真魚 協力/猪口貴裕
ご当地美女との触れ合いを求める夜の街の探索は、出張サラリーマンのボーナスステージ。なかでも、根強い人気を誇る歓楽街が札幌・ススキノだ。
人気の理由は、例えば、席につくや女のコが片足をかけてくるのが基本姿勢の“ススキノ式キャバクラ”。「貴重な一泊。口説いたり見えを張ったり、ムダな時間は過ごしたくない」という出張族のストレートな欲望にマッチしてか盛況。特に、街中が氷点下に凍る冬場は、厳しい外気と美女の肌の温もりが絶妙にマッチして、五感をビンビン刺激する。想像するだけで脳内の快楽物資が溢れ出す街・ススキノ。焦燥感に苛まれた僕は、機上の人となった。
路上からガラス越しに店内の様子が丸見え
訪れたのは2月初旬。雪まつり真っ只中のススキノをブラリ散策していると、道ゆくおっさんたちが「オオッ」と歓声とともにテカついた笑みを向けるお店がある。視線の先にはガラス張りの路面店。カウンター内で接客しているバニーガールたちのお尻がガラス越しに丸見えだ。誘蛾灯のようにお店の中に吸い込まれてしまった。タイ・バンコクのゴーゴーバーもかくやの客見せ方式を採用するこのお店は「ミリオン南4条通店」。系列は界隈に4店舗、ススキノガールズバーの先駆け的存在だ。
凍てつく寒さを溶かすススキノバニーガールズ
「いらっしゃいバニー♪」出迎えてくれたのは、ジゼルちゃんとナウンちゃん。どちらも、白い肌とコケティッシュな顔立ちが特徴的な道産子美女である。まずは「外から見られて恥ずかしくはないの?」と直球の質問を投げかけてみる。
「お酒飲んじゃえば羞恥心なんて感じないしょ」(ジゼルちゃん)
「そうそう。こっちのコはみんなお酒強いし。私? ウフフ。酔うと“噛みぐせ”があるから気をつけてね」(ナウンちゃん)
「ガウガウ」と可愛く歯を鳴らす仕草にほだされ、シャンパンを注文。すると、店中のバニーガールが集まってきて、「ありがとピョン、ピョン♪」の大合唱。すっかり酩酊したところで、その日の宿であるカプセルホテル「ニコーリフレ」へと移動した。
サウナ施設に突如出現した本格的ガールズバー
同店は、1時間おきにロウリュイベントが開催されるなど、全国からサウナ愛好家が集う有名スパ施設。サウナ→水風呂を3セットほどこなした後、休憩室へと向かう……と、目を疑う光景が広がっていた。なんと、サウナ施設の中にガールズバーがあるのだ。日本広しといえ、こんな粋な試みをしているスパ・温浴施設を、ここ以外に記者は知らない。「『外は寒いから館内で遊びを完結させたい』というお客さんの要望を実現しました」(「ニコーリフレ」総支配人)というが、風呂上がりに館内着を着たまま女のコと飲めるなんて何だか新鮮(赤面)。
「そう、みんな館内着なんですよ。外のお店で働いてたときは、身なりを見てどういう人か探りながらお話ししてたんですけど……。変な先入観がないから生身のトークが楽しめます」(店長のあいちゃん)
記者を含めた客は皆、フラットにおっさん。店内でイキる必要なんてどこにもない。サウナ→水風呂の基本セットにガールズバーまで加わり、遊び方のアレンジは無限大に広がるのであった。
【ミリオン 南4条通店】
住:札幌市中央区南4条西3丁目第3グリーンビル1F/2F
電:011-522-9182
営:19時~翌3時(金・土は翌4時まで)
休:無休
料:60分2000円~
系列の5条通店も同じく路面店で路地から店内が見える仕掛けに。内装はアメリカの娯楽誌『PLAYBOY』がモチーフ
住:札幌市中央区南3条西2丁目14番地ニコーリフレ内
電:011-261-0108
営:18時~ラスト(サウナは24時間営業)
料:60分3000円
飲み放題メニューはビール、焼酎、カクテル等30種類以上。女のコのドリンクは別途1000円~ 撮影/小牧寿里
「シェフズテーブルまでのアプローチはまるでランウェイ!」、「外資金融マンの寝酒はプレミアムテキーラ」、「次の予約もその場で取る、それが『港区ドリーマー』のルーティーン」
秀逸なキャッチコピーを楽しめる雑誌といえば、「ガイアが俺にもっと輝けと囁く」でおなじみの『MEN’S KNUCKLE』が有名。だが、同じ意味で記者が最近注目しているのが『東京カレンダー』という雑誌。冒頭のコピーは同誌最新号の特集「港区の優越」から一部抜粋したものである。
竹ノ塚のリトルマニラに集うおっさんたちが、フィリピンパブ嬢のドリンクおねだりにしわくちゃの1000円札を出すか出すまいかの攻防戦を繰り広げているのと同様、見栄と愛憎の消費合戦はどの階級にも存在していることがよくわかる。自分の懐具合と相談しながら、遊ぶお店のランクを選ぶのが常だが、ときには背伸びして“上の階層”を覗きたくなる夜もある。そんな思いに駆られる僕が向かったのは、今年6月にオープン、募集キャストの時給設定が高いことで業界の噂になった、六本木の高級ニュークラブである。
庶民派記者にとって高級店のハードルは?
ロアビルの隣、高級時計の路面店が入るビルの5階にお目当てのお店「FIVE.」はあった。ヒラヒラした美女やエリート風の外国人が行き交うエントランス。エレベーターの中からひょっこり、ジャスティン・ビーバーでも出てきそうな“セレブの魔窟”といった佇まいのビルだ。「いらっしゃいませ~」
席についたのはほどよい肌の露出とボディラインを強調した私服に身を包んだ美女4人。普段お目にかかれないクオリティの高さに、少々気後れ気味だ。これが、基本セット料金30分5000円超の破壊力か! しかし、あれだろ? 君らは僕みたいに、貧乏暇なしのアラフォーサラリーマンなんかと話すことなんてないだろ?
「アハハ。別に銭ゲバじゃないんだからお金で男の人を見たりしませんよ。むしろ、お金持ってオラってる40代は痛い。フツーに落ち着いてて包容力があればそれでいいです」(あゆみ)「お金だけで男の人を選んでいたら、いっぱい見てきたし、とっくに結婚してますよ」(こゆき)
「お金はあるに越したことはない。けど、スーパーの安売り特売しか買えない経済力じゃなければ、そんなに気にしません」(さな) 「プライベートでは赤ワインが好きだけど、気の合う仲間とならサイゼリヤのワインでもOKです。いろいろご馳走になったけど、結局一番好きなのはレバ刺しとビール」(さら) 高級キャバ嬢はオーパスワン以外のお酒じゃ酔えない……ってことはなさそうだ。「キャバ嬢も同じ人間なんです。『他の店より10倍カネ払ってるから10倍楽しませろ』って言われても……。仕事柄、何言っても平気って思われるけど、実は家に帰ってひとり泣いてることをわかってほしいな」(あゆみ)
3倍の稼ぎがあれば、夜の幸福度も3倍ってわけではない。ムリなく遊べるお店で自然に遊べばそれでいい……そんな原点に立ち返る、年の瀬、港区の夜であった。【FIVE.ROPPONGI】
住:港区六本木5-16-1 ゆきざきビル5F
電:03-5545-5777
営:20時~ラスト
料:30分5000円~(税・サ38%)
’17年6月に新規オープン。20~30歳の在籍キャストは60~70人で常時30人ほど待機。高級感のある落ち着いた内装
撮影/石川真魚