お金

1万円札がなくなる!? 「7年後をメドに廃止」は本当なのか?

日本の現金流通額は100兆円に上る

 一方で加谷氏は、日本での高額紙幣廃止には我が国特有の“壁”がいくつも存在すると指摘する。 「500ユーロ札や100米ドル札は、実際に使おうとすると断られるか偽札でないかどうかじっくり吟味されるので、日常生活ではほとんど使われていない。なので、廃止しても反対する人は少ないのです。しかし、日本で日常的に使用されている1万円を突然なくすとなれば話は別。大きな反発が予想される。まだまだ現金主義の日本では『結婚式のご祝儀はどうするんだ』といった話も出てくるでしょう。そうした事情をロゴフ氏はおそらくわかっていない。財産権との兼ね合いもあるのでインドのような強引な方法も難しい」  前出の久保田氏も、ロゴフ氏の論の穴を指摘する。 「日本の国税は海外の税務当局と比べても無能というわけでもなく、脱税やマネーロンダリング目的に日本円の現金が大量に退蔵されているとは思えない。さらに国際的なテロの資金調達に、ほぼ日本国内だけで流通する日本円が大量に使われるとも考えにくい」  ちなみにロゴフ氏は、著書で〈日本にはヤクザもいるし脱税もある。現金のかなりの割合が地下経済で保有されているのは、まずまちがいない〉と断定。その根拠として「『マルサの女』などの映画にも描かれている」としているが、論理的とは言い難い。  SPA!編集部は、高額紙幣廃止論に対する国内の異論について、ロゴフ氏本人にコメントを求めたが、期限までに回答を得られなかった。  加谷氏は「あくまで私見」としたうえでこんな見立てを述べる。 「ロゴフ氏は経済学者なので、高額紙幣廃止の実証実験をしたいのではないでしょうか。ユーロやドルと異なり、日本円の多くは国内で保有されているので、実験サンプルとしてもってこいですから」  しかし、こうした状況を踏まえてもなお、「すぐに廃止されることはないが、将来的に1万円札が廃止される可能性はあり得る」と予測するのは東短リサーチの加藤出チーフエコノミストだ。 「日本ではGDPの約2割に当たる90兆~100兆円の現金が流通しているが、これは世界的に見ても突出している。現金の管理や防犯にかかるコストを考えると、電子マネーのほうが優れており、日本でもゆっくりと現金比率は低下していくと予想される。現時点では1万円札は国民に日常使われているが、電子マネーという受け皿が浸透し『1万円ってもう随分見ていないよね』っていう状況になれば、廃止しても問題ないはず」  さらに「高額紙幣の廃止自体は法改正をすればよく、技術的には可能」(久保田氏)だと言う。  高額紙幣の廃止は、我々の経済活動や生活に直結する大きな問題だ。今後も国内外の情勢や成り行きを注視していきたい。 取材・文/奥窪優木 金地名津 写真/AFP=時事 ― 202X年、1万円札がなくなる! ―
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