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「ここは恋愛もSEXも禁止」――46歳のバツイチおじさんはヨガの総本山で煩悩とさらに戦い続けた〈第39話〉

突然、嫁さんにフラれて独身になったTVディレクター。御年、46歳。英語もロクにしゃべれない彼が選んだ道は、新たな花嫁を探す世界一周旅行だった――。当サイトにて、2015年から約4年にわたり人気連載として大いに注目を集めた「英語力ゼロのバツいちおじさんが挑む世界一周花嫁探しの旅」がこの度、単行本化される。本連載では描き切れなかった結末まで、余すことなく一冊にまとめたという。その偉業を祝し、連載第1回目からの全文再配信を決定。第1回からプレイバックする!  *  *  * 46歳のバツイチおじさんによるノンフィクション巨編「世界一周花嫁探しの旅」、今回の滞在地も7か国目インドです。ヨガ美女のるりちゃんを追いかけて、ヨガの総本山・アシュラムへとたどり着いたバツイチおじさんでしたが、南仏美女のサワと出会ってしまい、二人の間で揺れ動くことに。果たしてどちらを花嫁候補に迎えることができるのでしょうか? そもそも二人はバツイチおじさんを受け入れてくれるのか? 混迷を極める「恋のアシュラム」編もそろそろ佳境、心身を整えるヨガの総本山なのに今回も煩悩にまみれまくります! 「この子を連れて帰るなら、俺たち全員分のお金をお前が払えよ」――46歳のバツイチおじさんはアラブの荒くれ者に難癖をつけられた英語力ゼロの46歳バツイチおじさんが挑む「世界一周 花嫁探しの旅」【第39話 柔よく剛を制す】 南インドにあるシヴァナンダ・ヨガの修行場、総本山のアシュラム。ヨガの先生である日本人美女るりちゃんを追いかけて入門するも、真面目にヨガを追求するるりちゃんに冷たくされ、かなりヘコむ。だが、1日目の厳しい修行が終わった後の休憩時間、るりちゃんと少しの間お話をしたら、初恋の時の綿菓子のような甘い感覚を覚えるように。しかしその後、アシュラムで出会った南フランスの美女サワから「アシュラムを抜け出して湖で一緒に泳がない?」と誘われ、心が激しく動揺する。 「天真爛漫な南フランスの美女 vs 清楚で可愛い日本美人、どっちを選べばいいのか?」 いまだかつて経験したことのない究極の選択に、俺の脳は完全なる混乱を起こした。しかし、ここは心身を整え、ヨガの道を究める修業の場。やらしい煩悩など当然ご法度である。だが、そんな神聖なるアシュラムで、俺は恋心をふたつも抱き始めている。つまりは煩悩にどっぷりとまみれ、しかも優柔不断な46歳のバツイチおじさんなのであった――。 サワから誘われ、アシュラムを抜け出し二人で湖に向かった。アシュラムから少しだけ山を登り、舗装されていない緑の中の小道を抜けると、遠くのほうに湖が見えてきた。見渡す限り誰もいない。

ヨガアシュラムの近くにある湖

「誰もいない湖でサワと二人で泳ぐのか……。水着かなぁ? 下着かなぁ? それとも全裸?」 俺の中の煩悩はやらしい音を立てながら急速回転を始めていた。 ダメだダメだ、ここはアシュラム。煩悩は捨てなきゃならないんだ……。 それから5分ほど歩き、湖に到着した。水はとても澄んでいて綺麗だ。あたりには誰もいなく、洗濯をしているインド人の姿もない。 俺とサワは完全に二人っきりになった。唾を飲み込むとムグリっという音が聞こえた。 サワ「ゴトー、水着持って来たの?」 俺「うん。このパンツ、水着なんだ」 サワ「あ、そうなんだ。じゃあ、私も着替えるね」 俺「オッケー」 なんだ、全裸じゃないのか。 俺が水着を履いてるって言ったのがよくなかったのかな? 本当は全裸で泳ぐつもりだった、とか。 俺はサワに背中を向けながら、聞こえない程度の舌打ちをした。

着替えようとしているサワ

後ろからゴソゴソという音が聞こえる。 今振り向くと、サワはちょうど全裸なのだろう。 よし、振り向くか。 だって、ここは異国の地。相手は陽気なフランス人だ。 旅の解放感からそんな展開になってもいいだろう。 陽気なサワなら、笑って許してくれるかもしれない。 「よし、振り向こう!」 ……いや、待て! だめだ! ここはアシュラム。心身を整える神聖な場だ。 俺の中で相反するふたつの意見が激しく戦い続けていると、無情にもサワの着替えは終了していた。 サワ「オッケーだよー」 振り向くと、真っ白の体に淡いブルーのビキニ姿。 ドキドキした。 これも煩悩というのなら、ヨガの道から誰しもがドロップアウトするはず。 それぐらいの美しさだった。 俺「暑いね」 サワ「うん、暑い。暑すぎるわ」 俺「泳ぐか」 サワ「うん」 俺はTシャツを脱ぎ捨てた。 少し出た中年のお腹が恥ずかしい。 サワ「ゴトー、行くよー」 そう言うと、サワは湖にダイブした。 綺麗な飛び込みのフォームだ。 俺も負けじと飛び込んだ。 俺「気持ちいいねー」 サワ「最高~!!」 そう言うと、サワは顔を上げ、平泳ぎからクロールに変えた。 俺も負けじと、顔上げクロールに変えた。 そのまま3分ほど泳ぎ続けた。 その時、俺にはある問題が発生していた。 「サワ、いつまで泳ぐんだ! 体力が続かない!」 水深は意外に深く、足がつくような浅瀬ではない。 サワ「ゴトー、沖まで行こう!」 サワはクロールで岸辺から離れた湖の中央にどんどん泳いで行く。 俺の水を掻く腕はかなり重くなっていた。 どうしよう……。 ここで、やめたらダサいよな。 でも、ここプールじゃないしなぁ。 数年前、友達の結婚式でハワイに行った時、沖でサーフィンをしていたら体力が切れ、1キロほど流されたことがある。あの時はサーフボードがあったから助かったが、今回は何もない。体力が切れたら溺れる。溺れたら死ぬ。脳裏に恐怖の感情が突き刺さった。 だけど、ここでやめたら男がすたる。 俺は命がけで花嫁探しをしてるんだ! 俺「オッケー、今行くー」 俺はクロールで沖に向かうサワのほうに近づいて行った。だが、数メートル泳いだところで、もう腕が上がらないのに気づいた。 「やばい……ガチで溺れる……」 俺は慌てて方向転換し、サワと反対方向の岸のほうに戻って行った。 浅瀬の足がつく場所に到着すると、息がぜぇぜぇしてなかなか止まらない。 岸に登ろうとすると、もう体力が切れていて、何度もコケそうになった。 インド人男「ひとり?」 振り向くと、水着姿のインド人カップルが話しかけてきた。 彼らもアシュラムから抜け出してここに泳ぎに来たとのこと。 俺「いや、友達の女の子があそこで泳いでるよ」 男「君は泳がないの?」 俺「さっきまで一緒に泳いでたんだけど疲れて戻ってきちゃった」 男「だめだよ、女の子一人にしちゃあ」 俺「体力の限界なんだよね」 男「だせーなー。男は女よりたくましくなきゃだめだよ。なぁ」 男は彼女に向かってそう言った。彼女は彼氏をうっとりとした目で見て、俺に気遣うように笑った。 その後、カップルは湖に飛び込み、サワと3人で沖のほうで楽しそうに泳いでいた。 俺はそれをただただ見つめていた。 正確には、ただただ見つめるしかなかった。 そして、楽しそうに泳ぐ3人を見て、心の底からこう思った。 「情けない」 自分の怠惰な体を本気で恥じた。 そして、アシュラムに戻って体を鍛えなおすことを誓った。

サワと46歳バツイチおじさんとインド人カップル

サワ「ゴトー、どうして途中で帰っちゃったの?」 俺「ごめん、体力がなくて。命がけでついて行こうと思ったんだけど、『ちょっと待て、マジで死ぬぞ!』と思って引き返した」 サワ「ゴトー、死ぬとこだったんだ(笑)」 サワは大笑いをした。 嗚呼サワ、君はなんて優しいんだ。 そうやって笑いに変えてくれるとおじさん救われた気持ちになるんだよ。 サワ「ゴトー、キュート」 え? キュート? キュートってカワイイってこと? こんなおっさんが? サワは俺を見てニコニコしていた。 「サワ、君はもしかして……」 顔がポッと赤くなった。 その時、先ほどのカップルの彼女が神妙な顔で話に割り込んできた。 なんだよ、いいとこだったのに。 女「ねぇ、今そこで看板を見つけたんだけど、この湖、人食いワニが出るらしいよ」 俺「人食いワニ?」 女「危険だから泳ぐなって」 俺「……え? サワ、知ってた?」 サワ「ううん、知らない」 女「何年か前に人を襲って事故が起きたみたい」 一瞬、静寂が走った。 俺とサワも看板を見に行き、そして呆然とした。 湖の入り口の鬱蒼とした緑の前にある看板にはこう記されている。 『注意:この湖にはワニがいて危険なため、泳ぐことは禁止されてます。何かあってもアシュラムは一切の責任を取りません』

ワニが出るという内容の危険注意の看板

俺「……サワ、君も命がけで泳いでたみたいだね」 サワ「みたいね。ゴトーといっしょ、命がけね(笑)」 サワはまたクスクスと笑った。 俺も顔をひきつらせて笑った。
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アシュラムに戻ると……
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