更新日:2022年12月28日 18:21
スポーツ

サッカー代表、中島翔哉の落選に騒然。若いスターを敬遠する日本社会そのもの

日本サッカー協会公式サイト

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 今月31日のガーナ戦に臨む日本代表メンバー27名が、18日明らかになった。本田圭佑(31)、香川真司(29)、岡崎慎司(32)の“ビッグ3”が順当に選出された一方、ある選手の落選が話題を集めている。  今季ポルトガルリーグのポルティモネンセに所属し、10ゴール12アシストの好成績を残した中島翔哉(23)だ。ドリブルとミドルシュートを得意とし、ハリルホジッチ前監督(65)も絶賛したアタッカー。本大会でのキーマンと目されていた彼が代表入りを逃した理由が議論を呼んでいるのである。

西野監督が言う「ポリバレント」は使い勝手がいい奴?

 それが、「ポリバレント性のなさ」。ポリバレントとは、イビチャ・オシム元日本代表監督(77)が好んで使った言葉で、複数のポジションで高いレベルのプレーができる能力のことだ。西野朗監督(63)によると、中島選手はその点において不十分なのだというが、これに各方面から異論が噴出しているのだ。  熱狂的なサッカーファンで知られる歌手の小柳ルミ子氏(65)は自身のブログで「【スペシャリスト】がいて初めてポリバレントが活きるんじゃないだろうか」と不満げに記していた。

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 そんな中で印象的だったのは、元Jリーガーの石塚啓次氏(43)の分析だ。個性豊かなプレーと言動で“天才司令塔”と呼ばれた石塚氏が見たのは、悪い意味での日本らしさだった。  西野氏の言う“ポリバレント”を「器用で使い勝手がエエ奴」のことだと切り捨て、「得意な事を伸ばすんじゃなくて苦手な事を克服するって教育やししゃーないか、、、」と語ったのである。今回の選考で言えば、長所を持つ人間よりも短所のない人間が優先されたという見立てになる。

自信がないリーダーほど、安パイな人材を選ぶ

 そこで、ふたたび西野流“ポリバレント”の意義について考えてみたい。「器用で使い勝手がエエ奴」を重視する裏側に、ビジョンなき責任者の姿が浮かび上がってくるからである。  実際、西野監督は18日の会見で本大会初戦のコロンビア戦について「正直、まだ絵が描けない」と語っていた。これが事実だとすれば、いまの日本代表は軸となる方策もないのに心配事ばかりが膨れ上がる状況にあると言える。  そこでまず考えるのが、ミスをしない人材の確保だ。聞き分けがよく、所定の持ち場で指示通りに動けるならばなおいい。そして願わくば、保険としてそのようなオプションはできるだけ手元に置いておきたい。これが西野監督の言う“ポリバレント”の姿なのではないだろうか。  もっとも、中島選手を外した適当な理由が見つからずに、つい口から出てしまった可能性も捨てきれないし、サッカーファンからは“メンバー入りした選手の方がポリバレントではない”とのツッコミもあったのだが……。
 ともあれ、こうした急場しのぎの処置は現場に混乱しかもたらさない。全米でベストセラーになった『GREAT AT WORK』(著 Morten Hansen)という本がある。限られた仕事量で最大の成果をあげる方法を論じた一冊で、その中で北極レースのエピソードが例に挙げられていた。犬ぞりしかなかったアムンセンのチームに対して、巨額の予算と豊富な移動手段を準備していたスコットのチームはなぜ敗れてしまったのだろうか?  それはアムンセンが犬ぞりの質を上げることに専念できたのに対して、選択肢が多いスコットにはくだらない心配事が増えただけで、肝心の仕事にまで手が回らなくなってしまったからだという。  具体的な戦略の「絵が描けない」にもかかわらず、頭数だけでも便利屋を確保しておきたいと躍起になる日本代表がどちらにあたるかは言うまでもないだろう。
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トルシエ元監督が懸念する“日本らしさ”の自己満足
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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