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社会に合わせるのがしんどい…と思うのは発達障害特有の「こだわりの強さ」が原因!?

光武「たしかに楠田さんが例に挙げたような価値観は今の時代に合わない部分が大きいかもしれませんね。平成も終わりに近づいていくなかで、広く社会に受け入れられていた昭和の頃の感性を匂わせるような価値観(一つの物語といってもいいかもしれません)が、終わりを迎えているのかもしれません」 楠田「要するに、みんな一緒はきついから、人は人、私は私って変わっていったってことですよね。価値観の変化に関する意見は大学院でもメディアでもよく耳にします。でも、私の感覚では、みんなが口をそろえて指摘するほど大きな変化ってまだ起きていないように思うんですよね」 光武「なるほど。例えばどんな時にそういう気持ちになったりするんですか?」 楠田「いろいろですよ。例えばそうだな。私は世間でも比較的上位とされる大学、大学院に在籍していたんですけど、就活をした友人の内定先を聞いていると、やっぱりみんないわゆる“イイトコ”に行きつくんですよね。先輩の話を聞いても20代後半で付き合っていた恋人と結婚するという図式が透けて見えるというか……私の場合、そういう感覚をまったく共有できなくて。 『友人が就活を納得して終えることができた』ということには素直に喜べるんですけど、『一部上場企業に内定を取った』ということはまったく興味がないんです(苦笑)。そのときに友人から冷たいって誤解されちゃったりしましたね」 光武「なるほど。そうした社会的評価の高いものに対して懐疑性を抱くことも、楠田さんの強いこだわりなのかもしれませんね」  ASD傾向の強い方は、自分独自の価値観を強く持ち、社会の価値基準とズレていたとしてもまったく意に介さない(むしろ社会の側がズレていると感じている)場合が少なくありません。彼女の場合がそうですが、このように一般的な価値観とズレているからこそ、新しい独自の視点を持てるという利点もあります。(楠田さんの場合は独創的な研究に活かせているのだと思われます)  世界的な経営者にはアスペルガー的な傾向が強い人が一定数いるという事例(スティーブ・ジョブズなどは典型的なアスペルガーと言われています)からもわかりますが、ASDのこだわりの強さは明確な理念として生きる場合もあります。もちろん、それが強すぎると逆に意見を合わせられない人として浮いてしまうので(実際ジョブズは自分のやり方や思考に固執しすぎたあまり、創業者であるにも関わらず一度アップル社から追放されています)、やはりバランスが大事なんだと思います。 光武「ただ、価値観の多様化という言説が市民権を得てる一方で、実際多くの人は自分の感覚を大きく一気に変えることができないのも仕方がないと思いますよ。僕自身、20代の頃は、かなり社会とのズレを社会の側のせいにして自分の世界内に閉じこもろうとしましたから。ちなみにこの感覚のズレを活かして仕事ができるようになったのは30代に入ってからのことです」 楠田「そうなんですね」 光武「はい。いくら価値観が多様化したといっても、みんなの考えが変わったわけじゃないんです。むしろ一部が変わってきている、こういう普通と違うということがようやく認識されてきているからこそ、価値観が多様になったと“わざわざ”言うのかもしれません。 逆に考えればわかりますが、本当に多様な価値観を受け入れる社会ができあがっているなら、価値観の多様化自体が当たり前になるわけですから、そんなことをわざわざ言う人はいないんじゃないでしょうか。たとえば発達障害の場合、光が当たるようになってきたこと自体が最近のことですし、感覚としてこういう人がいるという事実が社会に受け入れられるのはまだまだ先のことだと僕は思います」 楠田「なんだかむずむずしますね」 光武「そう感じるのも、きっと楠田さんの特性なのかもしれませんね。僕自身も社会の価値観とのズレは今でも感じますし、できることならさっさと変わればいいのにと思いますから」 楠田「社会に合わせるのってしんどいですね。わかってはいましたけど、改めてそう感じます」
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社会が動いてくれないならこちらから社会の側に近づいていくしかない
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※ユーチューブチャンネル「ぽんこつニュース」でも光武さんが発達障害バーの日々を配信中

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