更新日:2019年08月28日 19:17
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自衛隊に若者が来ない。人手不足で「定年延長」することの大問題

「定年延長」がもたらした組織としての“弊害”

 さて、募集年齢延長と女性への職域拡大はある一定の成果がありましたが、定年延長はどうでしょう。こちらはすでに様々な問題が出てきています。定年を延長すれば、何もしなくても隊員数が減らないため数字上は自衛官の充足率が上がります。  でも、考えてください。その人数は高齢でしかも階級が高い自衛官なのです。足らないのは若い曹士クラスの隊員ですが、そんな数字マジックでいいのでしょうか?  まず、始まっていることは「昇任」ができないという問題です。自衛官には階級定年がありません。不祥事でも起こさない限り階級が降格されることはありません。階級は上からパーセンテージが決まっていて、その階級の人が退職しなければ下位の階級の人が昇任(昇進のこと)できません。定年延長で若い人たちが昇任できなくなっちゃうのです。
自衛官の階級・年齢構成

平成29年版「防衛白書」より

 これまで頑張ってきて家族が大学にいったり、結婚したりするような年齢です。 「かあちゃん、そろそろ俺も次の階級に昇任することになるから給料があがるからな。」と言っていたのがウソになっちゃうのです。これはかなり痛い。まさに青天の霹靂です。なんのトラブルもなく頑張ってきた自衛官の昇任の道が閉ざされてしまうのです。上が詰まって昇任できないのではモチベーションがダダ下がりです。  自衛官で足らないのは若い現場自衛官。曹士クラスです。定年延長では曹士クラスは増えません。統計上、充足率は上がりますが、それは官僚の政府への報告のための数字マジックとしては優秀ですが自衛隊の現場にとって何の価値もありません。
自衛隊

画像は公式Twitterより

「若年給付金」が目減りし、再就職が難しくなるという現実

 さらに定年延長は若年給付金の受取額の減額にもつながります。定年から年金受給年度まで毎年、もらえる給付なので定年延長した年数が増えれば、その年数分支給額が減ります。一番早い定年年齢(3曹・2曹クラス)は53歳です。これが54歳になります。この1年分が減額されます。自衛官の退職金も段階的に減額されていることと合わさって定年間近な自衛官にとって大ダメージです。年金受給年齢まで定年年齢が据え置きになるならともかく、1年延長された程度ではその後の生活の不安は変わりません。  50代前半での再就職は大変です。事務職の経験がない人も多く、体を使った仕事の比率は多くなります。高齢での再就職先が十分な収入を保証してくれるかどうかは未知数です。再就職先の企業から「定年した自衛官が10年間うちで働いてくれると考えて採用していたのに10年切ることになるじゃないか。」というクレームもあるそうです。再就職先の企業にとっても人員計画に狂いが出るのです。
自衛隊

画像は公式Twitterより

 若年層の人員不足を解消するキーワードは「賃金アップと待遇改善」です。賃金で呼びこむしかありません。統計上の充足率よりも、自衛隊の能力向上に着目すべきです。若い曹士クラスが足らなかったはずなのに、この施策で国が守れるのでしょうか?
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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