更新日:2023年04月18日 10:50
お金

ライザップの急落は予測できた。CMとは違い財務はメタボ気味

答えは「負ののれん」にあった!

 答えを急げば、急転落の背景にあったのは「負ののれん」の存在。 「のれん」については、以前紹介した楽天の財務分析でも詳しい解説をしています。 【過去記事】⇒「楽天」に未来はあるか?もはや通販の会社ではない  のれんについておさらいしておきましょう。  企業を買収する際に、その企業の簿価純資産額を下回る金額で買収した場合、その差額は収益として計上されることになっています。  例えば、ある会社を買収したとします。  その会社の簿価純資産額は20億円。その会社を10億円で買収した場合、20億円−10億円=10億円が「負ののれん」です。この10億円は、「その他の収益」に組み込まれるのです。実際、有価証券報告書で「負ののれん発生益」の欄で記載されているデータを見ると、 2017年…58億円 2018年…86億円 2019年…12億円  と推移しており、営業利益が拡大していた時期に、ライザップは「負ののれん」として収益に計上していたことから、純利益が高く見えていましたが、本来のパーソナルトレーニング事業での営業利益は「見かけよりも低かった」のです。  これは、SPA!ではおなじみのメルカリ転売で稼ぐサラリーマンで例えるとわかりやすいかもしれません。本来の年収は300万円と変わらないものの、メルカリ転売で年間100万円稼いでいたサラリーマンがいたとします。  彼はメルカリ転売用に、リサイクルショップで服を何着も仕入れていたとします。その服はメルカリで転売した場合、仕入れ値より高くつくものばかり。ある年は、メルカリ転売がかなりうまくいきそうで、副業収入が200万円に達しようとしていました。そこで転売した場合に見込まれる利益を「副業収入」として自分の年収に計上していたのです。  サラリーマンの年収は300万円のままでも、副業収入が100万円、200万円…と毎年増え続ければ、トータルでの年収は高くなります。しかし、転売が思うようにいかなくなった場合、一気に年収は下がります。サラリーマンとしての年収が上がっていないからです。  つまり、ライザップは本業(=サラリーマン)での年収アップではなく、副業(=メルカリ転売)で多くの利益を上げていたのです。

持ってる資産は「サプリの在庫」

 ここまでで、好調に見えたライザップの実状がかなり明らかになったと思いますが、さらに同社の裏側を読み解くべく、同社の財務諸表(略して“BS”=Balance Sheet)を分析しましょう。  ライザップのBSは、2016年から2019年にかけて資産が増加しています。ただし、大事なのはその中身。2018年の資産合計1743億円のうち、66%にあたる1166億円は「流動資産」で、ここがポイントです。「流動資産」とは簡単に言えばすぐにお金に変えられるもの、現金・在庫・売掛金です。  その中でも、売掛債権や、会員向けのサプリの在庫である「棚卸資産」が総資産額の39%を占める一方、現金預金は436億円の25%。つまり、「在庫による資産」が分厚かった背景があります。 「在庫による資産」が多い状態は、財務諸表においては安定した状態とは言いにくいのです。なぜなら在庫は、企業の資金を物に変えた形であり、売れることで初めて利益になります。大量に在庫を抱えて管理が行き届かなくなるケースは多いのです。  当時のイケイケ企業のイメージとは違い、ライザップは意外と脆弱な財務諸表だったのです。
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財務諸表界の“リバウンド状態”
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経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi

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